第40話 元気でね
結果的にジミーたち、闇ギルドが仕掛けた襲撃は大きな被害も出ず終わった。
ひとえに闇ギルドの二重スパイとして動いてくれた協力者の功績が大きい。
僕は翌日、功労者の彼女を自室に呼びだして今回の仕事を評価した。
「ありがとうメリコ、君のおかげで今回は救われた」
「見に余る光栄です」
メリコは元々闇ギルドの人間だった。
彼女はスパイとして僕の家に仕えていたんだけど。
ビィトは気づいていたようで。
彼のユニークスキルによって二重スパイになった経緯がある。
ジミーたちが仕込んだユニークスキルを封じる料理についても彼女がいなければ防げなかった。
メリコの功績を評価し、彼女は本日付けでA級冒険者に格上げ。
A級冒険者になれば冒険者支援を受けられるようになり。
その支援があればメリコは一生食うのに困らないはずだ。
今回の件でメリコは二重スパイを辞めたいと打診してきた。
「もう二重スパイには飽きました、今後は一人の冒険者として料理を探究したい」
「わかった、今までありがとう」
「それで坊ちゃま、首謀者ジミーの遺体は消息不明だとのことですが」
そう、メリコが言ったように、ジミーの遺体は誰かに盗まれたらしい。
闇ギルドの仕業だとすると、ジミーの遺体は悪用される可能性がある。
だからジミーの遺体捜索のためのクエストをS級のものとして依頼してある。
アルベルトやハクレンの手によって今も捜索中だとのことだ。
「私にできることがあれば何なりとお申しつけください」
「わかった、メリコは今後僕の実家に戻るの?」
「悩んでいます、このまま坊ちゃまの料理番としていてもいいのではないかと」
「それだったら僕としても歓迎するよ」
という訳で、メリコは僕の側近兼、お料理番として働くことになった。
メリコがいればこれまで外食ばかりだった食生活が改善されるだろうな。
あ、それと。
「メリコには闇ギルドが作ったっていうユニークスキル封じの料理を研究して欲しい」
「例のですか? 別に構いませんがどうするつもりだ」
「ユニークスキルの有無は戦況をくつがえすほど脅威的だからさ」
だから、それを封じる手段を僕ら、冒険者ギルドも獲得しておきたい。
メリコは僕の提案に「諸刃の剣だと思いますけどね」と言い、了承してくれた。
メリコが退室した後、喪服に着替えた。
昨日の事件で亡くなった命を弔うため、これから街ぐるみの慰霊会がある。
◇ ◇ ◇
慰霊会の会場である講堂にはすでに大勢の関係者がつどっていた。
学長のルーズベルトは壇上で哀悼の意を口にすると、彼は最後に。
「私は今日を持って学長の席を辞める、今回の件の責任を誰かが負わねばなるまい」
ルーズベルトの突然の辞職発言に、講堂にいた生徒たちは涙していた。
「諸君は大勢の友を失った、彼らを正しい道に導けなかったのが私の何よりの悔いとなろう、私は余生を老いぼれ冒険者の一人として過ごすことにしたよ。そして闇ギルドをこの世から滅ぼすため、尽力しようと思う」
――では祈りを捧げよ。
「皆の者、五分ばかりの黙とうを頼む」
学校の生徒たちと黙とうをささげる中、僕は隣にいたユーリに目をやった。
僕と一緒に親友ジミーの最期をみとった彼女を。
ふと、脳裏にあの時の光景が浮かぶ。
ジミーはユーリに光る剣で身体を上下真っ二つにされ、天を仰いだ。
魔族化していた彼の肌が元の色に戻り、ジミーは儚げな表情を浮かべる。
彼の身体は粉雪によってほのかな白化粧がなされ。
冬の寒気によって凍てついた石畳の通りの上に倒れていた。
「……なんだよユーリ、また泣いてるじゃねーか」
「ごめんね、ジミー、ごめん、ね……っ!」
「オーウェンはいるか?」
衰弱したジミーの目には何も映ってないみたいだ。
僕はずっと、彼の目の前にいるのに。
「僕ならここだジミー」
「ユーリを困らせるんじゃねぇっていつも言ってただろ」
「酷いな、彼女を困らせてるのは君なのに」
「はは……俺、もうそろそろいくよ」
ユーリは彼の手を握り、僕も二人の手に手をそえた。
そしたらさ、ジミーは――行きたくないって言い始めた。
「俺、まだ行きたくなかった、だってお前らといた方が幸せなんだもんよ」
――騎士学校に入るためだからといって、別れたくなかった。
「ずっと、お前らといたかった」
それが彼の最期の言葉。
彼が今生を惜しんで口にした本音だった。
ユーリはジミーの最期に、いつの日か在った別れを口ずさんでいた。
「元気、でね」
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