第38話 実質無料の無双モード

 友情、恋愛、家族、はたまたビジネスパートナー。

 僕は前世の時、人と人のつながりを軽視していた。


 そのため前世の最期は一人で死に、偉く恐怖したな。

 胸の奥底からスゥと体温が冷めていき、孤独死の怖さを悟った。


 今生の僕は前世と比べて人と人のつながりを重視している。

 その甲斐あって、幸せな暮らしが出来ているという自負がある。


 幸せになることばかりが人生だとは思わない。


 それでも、目の前で不幸に陥る親友ジミーを放っておけなかった。


「僕たち冒険者ギルドは今回の襲撃を事前に知っていたんだ……ジミーが闇ギルドに所属していたのも、僕は知っていたんだ。だから君達の計画は通用しない。今回の件で闇ギルドはまた勢力を縮小するだろうね」


 ジミーは人間の相貌ではない顔を、苦虫を嚙み潰したようにゆがめていた。


「だとしたらオーウェンは殺す、俺の手によって今ここで死ぬんだ」


 そう言うとジミーは僕から贈られた聖剣を鞘から抜く。

 聖剣はジミーの変貌に呼応し、刀身を黒く染めていた。


「……じゃあな――ッ」


 ジミーは僕の首に向けて凶刃を放った。

 恐らく次死んでも、蘇ったりしないんだろな。


 などと六年前を回想していた時。


 ――ギィン!

 ジミーが放った凶刃は僕が立てた聖剣によって金切り音を上げて止められていた。


「な、オーウェンがこの速度に反応できた……――ッ」


 瞳に映った驚愕の光景に、ジミーは確かめるよう今度は上段から剣を振り下ろす。

 その太刀筋も僕は聖剣によって防いでみせた。


「馬鹿な……」

「六年前、僕は死んで、そのことを猛省した。自衛手段ぐらい身につけるよ」


 と言っても、彼やユーリのように訓練した覚えはない。

 兄姉弟子の二人にも秘密にしていたことだ。


 数年前のこと、当時の冒険者ギルドは発展途上中で。

 闇ギルドから目をつけられ、両者は衝突し合った。


 当然、冒険者ギルドのかなめである僕はなんども命を狙われた。

 

 当時は常に冒険者の誰かを護衛に置いていたような状態で。

 お買い物や外食、両親に会いに行く帰路や散歩、四六時中そうだった。


 そんな折、僕のユニークスキル【ネット通販】に――無双モードなるものが追加された。


 無双モードの内容は大まかに二つ。

 一つめは、自分の能力値をポイントで購入できる。

 二つめは、知り合いのユニークスキルを同じくポイントで購入できる。


 購入してから二十四時間まで有効といった期限付きの限定条件はあるけど。


 僕の口からジミーに種明かしするように無双モードを語った。


「僕のユニークスキルは進化して、無双モードっていう新しい機能に目覚めたんだ。これを使えば自分の能力値をポイントで購入して、僕の知り合いのユニークスキルをポイントで購入することも可能になった」


 二十四時間というしばりについては口にしないでおく。

 これは闇ギルドへのけん制のパフォーマンスなんだから。


「マジ?」

「大マジさ、それも今回は無料クーポンを使用したから実質」


 ――無料。


 僕のユニークスキルは戦闘系じゃないのは明白だけど。

 この世に【ネット通販】ほど、僕の理想的なユニークスキルもそうはないと思う。

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