第31話 運動音痴のオーウェン

 先日実家に帰省したら急なお見合いを吹っ掛けられたけど。

 相手がハクレンだったのもあり、事なきことを得られた。


 時期としては一年の節目となる頃で。

 都の冬も終わりに近づいていた時だった。


 この時期になると、僕はある行事に駆り出される――コンコン。


「アルベルトだ、入るぞ」

「どうぞ、アルベルト」


 そんな折に、兄弟子のアルベルトが自室を訪ねてきた。アルベルトやハクレン、師匠とユーリにトビトと言った面々にはノンセキュリティで僕の部屋に通す権限を与えている。


 ハクレンはお見合い後もしばしば僕の部屋を訪れ、デートのお誘いをしてくるし。

 ユーリはもっと割のいい仕事ないのとか、同じ冒険者の愚痴を話しに来る。


 アルベルトもこうやって個人的な用件で尋ねに来るし、寂しい思いをしなくていい。


「師匠やユーリも帰って来たことだし、久しぶりに五人で何かしないか?」

「五人でですか? なら僕に妙案がありますよ」


 妙案とは、僕が例年のように参加している騎士学校での夜会に五人で参加しないかといったお誘いだった。アルベルトは僕の提案をうけると「趣味じゃない」といい否定する。


「せっかく師匠もいるんだ、ドラゴン退治とかそういったものを用意できないか?」

「アルベルトは相変わらず戦闘狂ですね」


 彼を戦闘狂と称賛すると、それも違うと否定していた。


「お前も一度師匠の隣で戦ってみろ、興奮するぞ」


 やっぱ戦闘狂の感想じゃん。


「兄弟子に聞きたいのですが、師匠のどこを慕っているんですか?」

「全てだ、人とは違った宿命に毅然と立ち向かい、あらゆる困難を克服する強さ」


 俺はあの人の全てをお慕いしている。


 どこかで聞き耳を立てていたアルベルトのファンがその台詞に大興奮。

 外で出待ちしているファンも「アルベルト様ぁ~!」と熱狂中だ。


 出待ちファンを獲得するほど人気高い兄姉弟子は裏で同人誌が作られている。

 この間参考資料としてトビトに一部を買ってきてもらったけど、まぁさておき。


「兄弟子が師匠を慕っているように、アルベルトも弟子を見越した方がいいんじゃない?」

「弟子……? 弟子か」


 アルベルトは今でも師匠を熱賛しているようだし。

 二人の関係にならって、もう一人の自分とも言える存在を残しておくのは有意義なことだ。


「弟子を持つにはまだ早いかもしれませんが、その切っ掛けぐらいは作ってみませんか」


 僕からの提案は、彼に貴重な人材との出会いの場を提供するものだった。


 兄弟子は僕の口車に乗り、騎士学校の夜会に参加する方向で調整してもらった。


 兄弟子の次にスケジュールを取り辛いのはハクレンだ。

 僕は兄弟子に同席を願い、ハクレンを部屋に呼んだ。


「折り入って何の用?」


 彼女はアルベルトの姿を目に入れ、浅くため息を吐く。

 アルベルトと違って彼女は極楽主義、できるだけ楽をしたい人生観をしている。


 たぶん、戦闘狂の彼がいることでまた高難度の依頼が来るとでも思ったんだろう。


「兄弟子から提案があったのですが、師匠とユーリ含めた僕たち五人で何かしないかって」


 そう言うとハクレンは気持ち安堵した表情を取る。


「いいと思います、具体案は出ているの?」

「僕が例年参加している騎士学校の夜会にみんなで出席したいと思ってる」

「……確か、夜会には男女がペアになる催しがありましたよね?」


 社交ダンスの時間のことかな?


「僕は出られませんが、お二人が参加したいのならご自由にどうぞ」

「私と一緒に踊りましょう、それが夜会への参加条件」


 えぇ……。

 困惑していた僕に、アルベルトが助言してくれた。


「無理だ、オーウェンは有史始まって以来の運動音痴だぞ、不可能だ」

「冒険者ギルドの長がそんな体たらくでいいの?」


 そこに俺に秘策あり!! と豪語して入室する不審者がいた。

 師匠だ、長い金髪をまとめあげてお団子頭にしていた。


「待たせたな、弟子どもよ! 今の話は俺の耳にも届いていたぞ!」

「地獄耳ですね」

「冒険者ギルドの長たる奴が運動音痴だと聞いたぞ!」

「あんたの弟子や」


 つまり僕が運動音痴なのも師匠のせい、そういうことにしておこう。


 師匠の来訪に兄姉弟子は生贄に差し出すように僕を師匠に預け。


 今は元勇者による厳しい特訓を受けている、なう。


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