第30話 ビアンカ・フローラ問題 その5

 前世の時、僕が好事していたRPGがあった。


 そのRPGは真新しいシステム――結婚を導入した超人気作で。

 ゲームには結婚相手が二人用意されていたんだ。


 一方はビアンカ――金髪と碧色の瞳を持った主人公の幼馴染。

 もう一人はフローラといい、彼女は金満家のご令嬢という設定だ。


 当時のプレイヤーは二人のヒロインのどちらかを選ばなくちゃならなくて。

 二人のヒロインのどちらを選ぶべきなのか、という論争が話題になった。


 話を現実に戻そう、今の僕は両親から結婚勧められている状況で。


 両親は幼馴染のユーリと高貴な家柄のハクレンを仄めかしていた。


 両親からお見合い相手として選ばれたのはハクレンで。

 相手が相手だったので、僕はなぁなぁにしてすまそうと思っていた。


 お見合いの後、僕はハクレンと一緒に隣家のユーリをたずね。


 ユーリがハクレン姉さんがどうしてここにいるの、と問うと。


「私――オーウェンと結婚するの」


 ハクレンの結婚に対する姿勢はガチだった。

 ハクレンの言葉に僕やユーリ、コーディおばさんは固まる。


 ユーリは追い詰めたネズミを射殺すような眼差しを僕に向ける。


「結婚するの?」

「まだしないよ」

「いつするの?」

「不確定なことだから、結婚という話自体、昨日今日でたもので」


 今の僕にその意思はない。

 とは思えど、ハクレンはその件でユーリをいじりたがっていた。


「ユーリさん、行き遅れちゃうね」

「言っていいことと悪いことがあるでしょうが!」


 六年前の僕であればユーリ以外とそのつもりはなかった。

 しかし、父さんが言っていたように僕は彼女に幻想を抱いていた面もあって。


 儚く村の天使のようだったユーリは今仁王立ちしている。


 これは僕におけるビアンカフローラ問題。


 幼馴染の彼女を選ぶべきか、または高貴な彼女を選ぶべきか。


 前世の時、僕はその問題に対してどっちも選べばいいじゃん(鼻ほじ)。


 と舐めていたが、それは不可能ということを体感してしまうのだった。


 ユーリはふてくされたかのようにソファに寝転がる。


「私にはトビトがいるし」


 彼女はペットのトビトを口にしていた。

 ハクレンはそのトビトについても。


「トビトさんはルビーさんと結婚してなかった? 子供もいたはず」

「そ、そうなの? ならお祝いの品ぐらい贈らないとダメかな……はぁぁぁ」


 深いため息をついて、ユーリは将来を憂いている。

 ハクレンはユーリにある打診をしていた。


「ユーリさんがどうしてもって言うなら、私は手を引くけどどうする?」


 それは例え僕がユーリの立場だったとしても、言い出せないだろうな。

 なら僕はビアンカフローラ問題について、もう一つの答えを導きだそう。


「今の僕に結婚する意思はないよ」


 もう一つの答えとは、どちらも選ばない、という新しい選択肢だった。


 ◇ ◇ ◇


 後日、その日も都にある冒険者ギルドの本部にいた。

 自室と兼用している仕事部屋にトビトがやって来る。


「失礼します、先日の帰省はゆっくりできましたか?」

「いや、あんまり。ユーリからこれ預かったから貰って、遅くなったけど結婚祝いだって」


 トビトに地元の名産となったイチゴを差し出すと、お辞儀してお礼を言う。


「ありがとうございます、それで早速なのですがこちらをご確認ください」


 あ、はい。

 トビトは矢継ぎ早に僕に書類確認だったり作業を提示してくる。


 今回確認を取って欲しいと言われ、目にしたものは先日のお見合いに関する内容だった。ある新聞社が僕とハクレンのお見合い報道を自身の商品として扱いたいと交渉してきたらしい。


『冒険者ギルド創設者のオーウェン、遂に年貢の納め時か』


 その見出しをみて、僕はためらわず認可を出した。


「好きにすればいいじゃん」

「しかし、こうなるとユーリが個人的に気に掛かりまして」


 ユーリは僕やジミーと一緒に帰って来て、冒険者としての活動に精を出している。


「今の彼女に結婚は視野にないよ、トビトも僕も誤解してるんだ」

「と言いますと?」

「ユーリはもう弱くない、彼女はその足で自立している」


 それを証拠にユーリは冒険者ギルドで成果を出している。


 今の彼女は一人前の冒険者と言っても過言じゃなかった。

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