第27話 ビアンカ・フローラ問題 その2

 親切心からユーリに帰郷を提案した。


 それも仕事の一環として。

 幼馴染に与えたそのクエストの報酬額は金貨100枚。


 金貨100枚をユーリとジミーと、ジミーの仲間の五人で分けてもらう。

 ジミーの仲間の一人で将来を誓い合った戦士職のルーシーは言う。


「さすがは冒険者ギルドの創設者にして男爵家の当代様、ご自分に甘いことで」

「僕は一銭も貰いませんし、今回のクエストの報酬額の査定担当はトビトです」


 トビトといった亜人は女神様の声を聞くことが出来るらしく。冒険者ギルドで働く彼らはクエストによって生じる【ネット通販】のポイントを知ることが出来る。だから冒険者ギルドは本部、支部問わずトビトのような亜人が窓口を担当しているのだ。


 とはいえ、帰郷クエストに金貨100枚は破格。


 普段からジミーと一緒に鞭打って働いているルーシーが文句を言うのもわかる。


 ユーリはルーシーの大きな胸に手をやっていた。


「すごい、バインバイン」


 ジミーが雪男の風格をしていれば、恋人のルーシーはグラビア級だった。


 僕たちの故郷までは以前だと馬車で片道一日半は必要だった。


 しかし、何かと革命の多い六年後の今は――


「え、もしかしてこれドラゴン?」


 馬車にとって代わり、ドラゴンが空の道を牽引してくれる。

 ハクレンにいって転移魔法で連れてってもらってもよかったけど。


 ユーリはハクレンを毛嫌いしているようだし、貸しを作るのもよくない。


「先日の誕生日パーティーの時、僕の両親もいただろ? 両親もこれで来てたんだよ」

「でも、ドラゴンでしょ? 狂暴な種族の代名詞みたいなものだし」


 大丈夫、このドラゴンたちは【ネット通販】で購入したペットだ。

 トビトたちと出自が変わらない。


 説明は終わったのでさっそく行こう。


 僕たち八人は一路、僕の故郷である村へと竜車の牽引で向かった。


 二時間ほどの空の旅を満喫するなか、ジミーを交えてユーリと話した。


「この竜車の他にも、都を中心とした鉄道網を開発中なんだ」

「鉄道網?」

「電車って言って、大勢の人がいっぺんに乗れる乗り物に必要な――」


 僕のちょっとした自慢話だ。

 彼女が師匠と消失していた六年の旅も気になるが。

 ユーリはそれにあまり触れられたくない節があるみたいだった。


 竜車に乗って村まで移動すると、ユーリが驚きの声をあげる。


「え!? ここがあの村なの!?」


 ジミーはユーリの反応に破顔して、しっしっしと笑う。


「ここは革命王オーウェンの故郷だぞ? いつまでも寂れた農村のままのはずないだろ」


 農村の光景は村というよりも街。


 父が領主であるのをいいことに、僕が積極的に手を入れた。


 と言っても、村の農業地区には今でも畑や果物栽培用のビニールハウスがある。僕の【ネット通販】でイチゴや葡萄、サクランボや桃、スイカ、メロンといった甘い果物も獲れるようになっていた。


 街の入口のお土産屋さんに売っていたので購入、コーディさんへの差し入れとして持っていこう。


「ユーリも食べてみなよ、美味しいよ」

「じゃあ頂きます」


 そう言って彼女は赤い宝石のようなイチゴを頬張り。


「え! 美味しい!」


 その美味たる口当たりにまた驚く。

 お土産さんの店主が彼女のようすをみて、眉を開いていた。


「もしかしてユーリちゃん? いやぁー、帰って来たんだ、大きくなったねぇ」


 元々ユーリは村のお姫様だったからか、彼女の帰郷に村中の人間が喜んだ。


 ◇ ◇ ◇


「じゃあ私母さんに会って来るから、二人ともバイバーイ」


 ユーリは軽い足取りでメゾン・ド・ヒーローに入っていく。

 ひょっとしたら僕よりも帰郷に抵抗がなかった、いや確実にない。


 ジミーには僕の緊張感が透けていたのか、肩に手をやって言うんだ。


「オーウェン、俺たちさ」

「何?」

「年貢の納め時だな」


 こうして僕の異世界人生は終わりを告げた。


 とはならないように、息を整える。


「わぁ!」

「ぐりふぃんどーる! って、ニーナか」


 母の相棒で獣人のニーナが背後から忍び寄って驚かせた。

 ニーナは彼女の子供のジーンを連れてこれから散歩に行こうとしていた所だった。


 ジーンは僕やジミーを見ると手を振った。


「おーうぇん、じみー」

「ジーンは今いくつだっけ?」

「よん」


 まだまだ幼いけど、彼の将来に幸があるようにという祈りを込めて。

 ジーンの両肩に手をおき、僕は告げた。


「お互いに頑張ろう」


 ニーナは自分の息子、ひいては四歳児に意味不明なこと言わないでと注意するのだった。


 その後ニーナと立ち話して、時間稼ぎしようと画策したら。

 ジミーは持ち前の天然癖を発揮して、早々に彼の実家に向かった。


「じゃあなオーウェン、時間稼ぎもたいがいにしろよ?」


 ニーナはジミーの去り際の台詞が疑問だったようだ。


「時間稼ぎって何? また何か企んでるの?」

「人聞きが悪くない?」

「だぁって、相手がオーウェンだし、そりゃあねぇ?」


 ねぇ? 都でも評価の高い革命王の僕だろうとて、この村だと単なる悪戯小僧だ。

 村の人間は僕たちの昔を知っているから、周囲から僕の話を聞くとみんなして言うんだよ。


 あのオーウェンが? はは(鼻で笑う)。


 そんな彼らに声を大にして言いたい。

 この村が飛躍的な発展を遂げたのは誰のおかげだと!?


 ニーナは僕の話術にすっかり篭絡されてしまったねぇと息子ジーンに語り掛けていた。


「もう帰ろうか?」

「うん」

「と言うことで、付き合ってくれてありがとうオーウェン、じゃね」


 え……はぁ、仕方ないから僕も父さんたちに会いに行くか。


 実家は母のギルメンの社宅と化したメゾン・ド・ヒーローの隣。


 この間、息子の実績を評価されて男爵から伯爵に格上げされた父さんの邸宅だった。


 実家を一言で例えるのならこうだ。


 息子の【ネット通販】で近代化を遂げたバッキンガム宮殿、と。


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