第26話 ビアンカ・フローラ問題 その1
連日連夜、冒険者ギルドには多種多様な依頼が舞い込んでくる。
迷子になったペットを探して欲しいという庶民的な依頼や。
某国との仲が険悪になったので冒険者にスパイ活動して欲しいという依頼まで。
危険なものから易しいものまで依頼が舞い込む。
難易度が高く、求められる冒険者等級も高めの依頼は夜に来る傾向が強かった。S級とまではいかずしも、CからAといった上級冒険者がギルド本部で待機し、今夜も依頼がやって来るのを待っている。
そのさなか皿洗いに飽きたユーリは僕の仕事部屋を訪れ、打診するんだ。
「オーウェン、私も冒険者登録したいんだけど、どうすればいい?」
「君の実力であれば僕から推薦状出すよ」
でもいいの? と聞くと、ユーリは不思議そうにしている。
「何が?」
「……六年前のユーリであれば、絶対許可しなかったと思う」
六年前の君は可憐で、村一番の美少女で。
村の人間からの人気も高く、全員から寵愛されていた。
言わばお姫様みたいな女の子だった。
「冒険者って、華のある仕事に見えるけど、苦労することも多いと思うよ」
「大丈夫よ、先日も見てもらった通り、私強くなったの」
そうだろうね。
お姫様だったユーリが今やS級冒険者と肩を並べるほど強くなった。
そのことに、僕は夢を破られた側面もあるのは内緒だ。
ユーリは即日付で冒険者登録を済ませ、秘書のトビトから必須道具を受け取る。
「トビト、私のこと覚えてる?」
「忘れるはずもないですよ、私の愛する姫様」
「嗚呼、癒される!」
世界中でもトビトのような二足歩行の兎の亜人はいなく。
僕にトビトのようなペットを売って欲しいという声も出ているぐらいだ。
「ユーリには僕から依頼しようかな、君にしかできないクエストだよ」
「たいていのことならやるけど、オーウェン」
ユーリは何を思ったのか、両手で胸を隠して鋭い眼差しを送る。
「私の体を強要するようないやらしい依頼はやめてね?」
「舐めてるの?」
つい本音をもらしてしまうほど、彼女は変わった。
「じょ、冗談よ。それで私にしかできないクエストって何?」
「コーディおばさんに例年贈り物を出してるんだけど、届けてくれない?」
「……母さんに?」
「しいては僕たちの故郷である村の人たち全員に、だね」
「それだったら、いいけど?」
先日の僕の誕生日パーティーにコーディおばさんはいなかったし。
これでようやくおばさんはユーリと再会できる。
ちょっと心配だったから、ジミーに同行してもらうことにした。
急な依頼だったとはいえジミーは喜んで応じてくれた。
ジミーはジミーで両親に恋人や仲間を紹介したかったらしい。
そしたらさ。
「どうせならお前も来いよオーウェン」
え゛。
これは同郷の幼馴染による断っても逃がしてくれない強制パターンの気配。
同室していたユーリがジミーの意見に激しく同意していた。
「みんなで帰れば怖くないってことぉ?」
「そういうことだな、ってことで用意しておけよな」
とほほ、今家に帰りたくないんだよなぁ。
ユーリは僕が表情を強張らせていたのを看破していた。
「私は帰り辛い理由があるとして、オーウェンは何かあるの?」
「……父さんが」
「おじさんがどうかしたの?」
「父さんは貴族だろ? だから国から言われているらしいんだ」
――君の息子さんにはそろそろお嫁さんが必要じゃないのかね?
――ご子息の実績であれば、王家のものがよろしかろう。
とかなんとか、父は国から僕とのパイプを強固にしようと嫁を提案されている。
僕としてはのらりくらりかわす予定だった。
父への言い訳としてユーリの名前を出したこともしばしばある。
それは内緒にしておき、事情を二人に説明すると。
ユーリはヘドロを見るような眼差しを僕に送る。
「オーウェンは選びたい放題でいいわねぇ~」
ジミーはユーリの台詞に笑い、満面の笑みを浮かべていた。
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