第28話 ビアンカ・フローラ問題 その3
僕やユーリが大きく変貌したように、実家も変わった。
外観は以前のをベースにしているから特に変わらないんだけど。
大きく変わったのは実家どうこうと言うより、仕える人間かな。
「ただいまー」
と言い、実家の門戸を開くと父さんに仕える執事のビィトが出迎える。
ココだけの話、彼もS級冒険者の一人だ。
彼は類稀なユニークスキルを持っていて、ひょっとしたら兄姉弟子よりも厄介だ。
「お帰りなさいませ、坊ちゃまは私が今非常に怒っていることはご存じでしょうか」
「え? なんで?」
「六年前の悲劇をもうお忘れですか?」
そう言うとビィトは碧色の瞳を僕に向ける。
六年前、僕は闇ギルドの人間によって殺害された。
その時、僕は周囲の大人たちを悲しませた。
例え、今は鼻で笑う村人も、あの時ばかりは悲痛な思いをしたという。
「忘れようにも忘れられないよ」
「と言う割には、今回は護衛をつけてないご様子でしたので」
「ジミーのパーティーを付けていたんだよ、さっきまで一緒だった」
反論すると、ビィトは嘆息をついて彼のユニークスキルを発動させた。
「――ジャッジ、私は坊ちゃまの口から反省の言葉を聞くまで下がりません」
彼のユニークスキルの名は【ジャッジ】――続けた誓約が実行されるまで対象を縛るといった特殊なものだった。
この場合だと、僕の口から反省が語られなければ僕はずっと玄関から動けなくなる。
「はぁ、今後は六年前の教訓を念頭に常にそばに誰かつけるようにします」
「その言葉、努々お忘れなきようお願いいたします」
執事で実家に仕える従者の長である彼の手痛い洗礼を受けた後。
ビィトは両手を上げてパンパンと手短に二拍した。
実家の従者がぞろぞろと顔を出して。
「「「お帰りなさいませ坊ちゃま」」」
僕のことを坊ちゃまと呼んで出迎える。
「せめて坊ちゃまって呼び方はやめよう」
これは僕からの提案。
その提案にB級冒険者で実家の料理番のメリコは首を傾げる。
「坊ちゃまは坊ちゃまです、それ以上でもそれ以下でもありません」
「棘を含んだ言い方もよそう」
彼女はこのようによく迷言を残す。
◇ ◇ ◇
その夜は両親交えての晩餐となった。
晩餐の席は実家にある大きな食堂で。
料理のことならなんでもござれと自負するメリコは目にくまをたずさえて言う。
「本日のご夕食はお値段で言えば銀貨二十枚、題して最期の晩餐です」
「ユダは君のことだろ、いただきます」
父も僕にならって出された料理を口に運び始める。
母も黙々と料理を食べ始めた。
なぜ二人は妙な沈黙を出しているのだ、怪しすぎる。
すると父はわざとらしい口調で。
「そう言えばオーウェンに『誕生日プレゼント』をまだ用意してなかったな」
「要りません」
父の言葉についで母が沈黙を破る。
「必要でしょ? 『誕生日プレゼント』、だってあなたもう十五よ?」
「なおさら要りません」
両親が何かの隠語として誕生日プレゼントを使い始めた件について。
父はナプキンで口を拭うと。
「今回はいつまで居てくれるんだ?」
「そうですねぇ、今回はユーリとジミーの帰省もかねているので」
「誕生日プレゼントは明日ご来訪くださるから、それまでは居るんだよな?」
「要りませんって!! そこ、笑うな!」
同室していたメリコがぷーくすくすと笑っている。
「チェリーボーイ、いえ、今夜のデザートのことです」
そのあと押しだったのか、同室していた従者という従者が。
「坊ちゃまのお相手ってどんな人?」
「さぁ? しかし坊ちゃまは何がご不満なんだ」
「坊ちゃまみたいな有望株だったら私だって」
「坊ちゃまに見初められたい、坊ちゃまに愛されたい、坊ちゃまに坊ちゃまに」
各々聞こえるように誕生日プレゼントの話題で盛り上がる。
僕は用意された食事を無作法に急いで食べきった。
母がそんな僕を注意する。
「行儀が悪いし早食いは体によくないわよ」
「少し一人にさせてください、考えたいことがあるので」
と言い、退室しようと席を立つと、メリコが急に僕に身体を預けた。
「はぁ、はぁ、ちぇりー、じゃなかった、坊ちゃま……」
「なんですか?」
潤んだ瞳で息を浅くした様子で、彼女の紫色の瞳に反射する僕が見えた。
「デザートがまだございますのでお席にお戻りください」
くそ!
彼女の瞳越しについ舌を打つ僕が見えて得も言われぬ敗北感をもたげた。
言われたまま席に戻って頬杖つくと、母が横目で見ていた。
「オーウェンは興味ないの? まったく?」
「異性にですか、恋愛にですか、または結婚にですか、家庭を持つことにですか」
「全部」
「……興味ならありますよ」
「なら素直に受け取ったら? 誕生日プレゼント」
その隠語はもういいから!
「お相手は一体誰なんです」
と問うと、父は真剣な眼差しで言った。
「ユーリちゃん」
「え?」
「であれば、お前の本望だったか? 聞いた話によると彼女には幻滅したらしいじゃないか」
幻滅? たしかに変わったなとは思ったけど……悩ましい。
父はユーリを最初に上げたが、この場合ユーリが候補に上がることはないだろう。
何故なら噂されているのは高貴筋の人なのだから。
王国の強いパイプ役として担える人、しっかりとした女性なんだろうな。
もしもその相手と結婚したら、主導権握られそうで嫌だった。
◇ ◇ ◇
翌日、昨夜の僕は脱走を試みたが失敗した。
実家の有能な従者たちは脱走した僕を即座に見つけ捕縛し。
脱走という不敬を働いた僕にビィトがユニークスキルで僕を寝かしつけた。
そのままビィトに起こされ、ビィトの言いなり人形となり。
お見合いの顔合わせの席に座っている。
場所は実家の食堂だった、ここで軽くお茶しながら双方で話し合うらしい。
家の外から音がした、竜車が着地する音だ。
お相手が来てしまったらしい。
執事長のビィトがさっそく対応に向かい、僕は母からウインクされた。
「大丈夫よオーウェン、貴方が嫌がる相手じゃないから」
「どういう意味ですか」
「さぁ、来たみたいよ。席から立って、背筋を伸ばして、自信を出す」
しぶしぶ席から立ち上がり、言われた通り背筋を伸ばした。
相手はハイヒールを履いているみたいだ、コツコツコツと食堂に向かっている。
そして僕は誕生日プレゼントこと、お見合い相手の正体を知り。
僕は驚くと共に、なんと言うか、身近な人すぎて色々考えてしまった。
「は、ハクレンがお見合い相手なんですか?」
「みたい、よろしくオーウェン」
それは今日のために白いドレスを着飾った姉弟子のハクレンだったのだ。
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