第24話 この親子ナンセンス その1

 師匠とユーリは寿司を目一杯食べた。

 説明しておくと、ここは高級店で、ああ、もう存分に食べなはれ。


 師匠は寿司でお腹を満たすと明け透けなことを言う。


「ふぅー、やっぱ持つべきは金持ちの弟子だよなー」


 本当に変わってないなこの人(皮肉)。

 粗雑な言動で、横着しいな性格で。


 それでいて――この世の誰よりも強いんだろ?


 師匠最強説はS級冒険者として大活躍している兄姉弟子の二人も認める。


 今朝、師匠と何を話していいのかわからないと言ったアルベルトが何かを言いたそうだった。


「……師匠、長旅お疲れ様でした」

「おう、アルベルト、その後変わったことはあったか?」

「あります、まず、俺は貴方を超えた」


 い、言うねぇ。

 師匠の部屋の前で硬直していた人の台詞とは思えない啖呵たんかっぷり。


「俺を超えた、っていうのは口説いた女の数のことか?」

「実力の方に決まってるじゃないですか」


 僕はそこでストップを掛けた。


「アルベルト、二人は長旅で疲弊してるんだから、吹っ掛けるにしても時と場合を」


 選ぼうよ、と言おうとすれば師匠は制止した僕を逆に手のひらで止め立てた。


「いいじゃねーかオーウェン、アルベルトは弱虫だから、こういう状況でしか強がれないんだよ」


 誰もそんなこと言ってないんだよ!

 アルベルトは師匠の挑発に、剣の鞘で応酬していた。


「その手を退けろよジジイ、オーウェンは俺の大事なオーナーだ」

「ぶっはっはっは! 弱虫のオーナーはへっぴり腰の鼻たれオーウェン、さすがだぜ」


 こいつら本当にS級冒険者なのか?

 と疑問視するぐらい安い挑発に見えた。


 まぁ、師匠とアルベルトは雌雄を決したいんだよな?


「決闘したいのなら内の訓練場を貸しますよ、やるのならせめてそこでやってください」


 打診すると、師匠はご自慢の黄金色の長髪姿で席を立った。

 自信満々な笑みでさ、ご馳走してくれた女大将に目をやって。


「決まりだな、どうせなら二対二でやろうぜ、俺とユーリVSアルベルトとハクレンのチーム戦だ」


 はぁ~?


「師匠、アルベルトとハクレンの実力は超人の域に達しているんですよ?」


 師匠はいいとして、そこで何故ユーリの名前が出るんだよ。

 ハクレンはユーリと見つめ合っていた。


「やれるのユーリさん?」

「少しは自信ありますよ、オーウェン、心配ありがとう」


 マジ? マジでユーリも加わるの?

 ハクレンはユーリの返答に口端を吊り上げていた。


「なら貴方を少しこらしめないとだね」


 ◇ ◇ ◇


 僕たちは場所を都の北区画から西区画に移した。


 西区画には冒険者ギルドの様々な施設がある。


 冒険者の宿泊施設だったり、大浴場、遊技場や装備品売り場など。


 六年という月日を経て、冒険者産業を支える区画に変貌していた。


 師匠やユーリを連れて訪れたのはその昔、アルベルトが提案した訓練施設。


 円状に敷かれた都の外壁部を改築してつくられたドームで。

 そのお値段なんと100億ポイント、金貨100万枚に相当していた。


 ドームは中心部の訓練場と、外周部の観戦席とで二重構造になっている。

 中心部の訓練場をおおう透明のエナジーフィールドは壊れたことがない。


 観戦席はすでに多くの冒険者で埋め尽くされていた。

 アルベルトのファンかハクレンのファンの情報網を伝って漏れたっぽい。


『今から訓練場でS級冒険者同士の決闘が始まるってさ』

『マジかよ!? 今クエスト中だけど観に行くわ』

『賭けようぜ、俺は勇者に賭ける』

『アルベルト様、貴方に全ブッパしますッ!!』


 東側に位置していた師匠は剣や槍といった武器を持っていない、ユーリも無手?

 師匠は反対の西側にいるアルベルトに向かってほえていた。


「お前のファンが泣くぜ! 俺が泣かしてやるぜアルベルト!」

「……――」

「あん!? 何言ってるのか聞こえねーぞ!」

「――煩いぞジジイって言ったんだ」


 ――ッッッ……!!

 どちらから開始の合図を出すでもなく、アルベルトは師匠を強襲していた。


 およそ800メートルの間合いを一瞬で詰めての強襲だ。

 剣を振り下ろされた師匠の足下から砂煙が立ち上り。


 観戦席にいた冒険者はその実力に大歓声をあげていた。


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