第23話 SUSHI
ユーリと師匠が長旅から帰って来た翌朝。
ソネットの報告によるとユーリは朝早くに起床し、都をランニングしたようだ。
「はぁ、はぁ、ユーリ、さん、は、思った以上に運動が出来るみたい、です」
「ふーん」
昔の彼女からすると考えられないことだ。
その後自室で腕立てや腹筋といった筋トレをして。
今はシャワーで汗を流しているみたいだ。
ソネットのユニークスキルは使役する精霊を介して偵察任務も出来る。
とはいえ、距離を取られるとやり辛くなるみたいだ。
なので彼女はユーリのランニングについていった。
「ありがとう、彼女は師匠の下で自衛手段を身に着けていたみたいだ」
でいいのかな?
この後、二人と一緒に朝食を取ろうと思うので、その時に直接聞こう。
ソネットは乱れた息を整え、僕にえしゃくする。
「では私はこれで失礼します、S級冒険者の護衛につけて光栄でした」
ユーリが自己鍛錬するなか、師匠は爆睡中だった。
寝ている師匠を起こしに部屋に向かうと、アルベルトがいた。
「何してるんですか?」
彼は師匠の部屋の扉をノックする姿勢でかたまっている。
「……昨日は比較的話せたが、今日は何を話せばいいのか考えていた」
「普段からコミュニケーションとっていれば自ずと話題は出るようになりますよ」
なので、兄弟子も師匠相手にコミュニケーション能力をつちかってくれ。
アルベルトは寡黙がすぎてこんな弊害を生むような朴念仁になっていた。
腕は立つんだけどな。
そこにハクレンもやって来る、みんな考えることは一緒みたいだ。
「師匠、お早うございます」
三人で部屋に入ると、師匠はベッドに腰掛けていた。
「おっす、朝からどうした?」
「朝食をご一緒しようかと思いまして、僕ら三人と師匠とユーリの五人で」
「はっはっは、ここんとこまともに食えてなかったからなー、期待してるぞ」
師匠のような腕前と名声があっても、食事をまともに取れないのか。
僕からしたら考えづらいことの一つだった。
◇ ◇ ◇
弟子の三人で師匠とユーリを外へと連れ出した。
二人はまともに食事出来てなかったということらしいので、外食さ。
目的の店がある区画に向かう最中、こんなやり取りがあった。
「ユーリさん、久しぶりだね」
姉弟子のハクレンがユーリに声を掛けた。
彼女もアルベルトについで寡黙気質だから、自主的に声を掛けるのは珍しい。
「……お久しぶりですね」
「今までどこで何をしてたの?」
「……」
しかしユーリの歯切れは悪かった。
ハクレンも気に掛かったみたいだ。
「どうしたの?」
「私、ハクレンさんのような美人嫌い」
えぇ? すぐそばで聞いていた僕もその台詞には引いた。
ハクレンも相当ショックだったみたいだ、一瞬体を硬直させる。
「昔はハクレン姉さんって、慕ってくれて」
「昔は昔、今は今です。それよりも私アルベルト兄さんと話したいなー」
ハクレンは追い打ちを掛けられ、ぷるぷると肩を震わせる。
師匠はそのシーンについて一言残す。
「はっはっは、すまねぇハクレン、こいつ今じゃ単なるビッ〇になっててよ」
男は好きだけど女は苦手らしい。
との情報に、ハクレンは文句をつけていた。
「天使のようだったのに、師匠はユーリさんに一体何をしたの?」
「はっはっは」
師匠は笑ってごまかしているだけだった。
それで昔をほうふつとしたのか、ユーリがあることに気づいた。
「そう言えば、私達が今いる北区画ってスラム街じゃなかった?」
「そうだね、六年前はそうだった」
六年前、僕は兄姉弟子とユーリの四人でここを見学しに来ていた。
ユーリはここにいた物乞いたちを見たはずだ。
その時の記憶をよみがえらせたのかな。
「師匠が都にいた闇ギルドを壊滅させた影響で、ここは平和になったんだよ」
「ふーん」
「ホーネットさんって覚えてる?」
「なんとなく」
「北区画は彼と協力して再開発したんだよ、だから今だと都で一番新しい」
僕たちはその足取りで地下街へと向かい、ユーリと師匠は目を輝かせていた。
北区画は都に面した港が近く、主に地上と地下で分かれている。
地上にはそれまで住んでいた人たちのための居住区。
地下は港の漁業などで使う施設が半分を占有していて。
漁港で取れた新鮮な魚料理を食べれる店が目白押し。
「師匠やユーリには是非スシを食べて欲しい」
「「スシ?」」
「酢飯を魚の切り身と一緒に食べる料理のことを全般的にスシって言うんだ」
二人に紹介するお店は、数ある寿司屋の中でも僕一押しのお店。
SUSHI、と書かれたのれんをくぐり、五人で店の中に入る。
「らっしゃい! と、オーウェン様御一行ですか」
「一応紹介しておきますと、彼女も冒険者の一人です」
木造りの小洒落た寿司屋には、僕も心血を注いだ。
母がメイド喫茶にこだわったように、僕も飲食店にこだわってみたくて。
「本日もいいネタ入ってますよ」
「じゃあお任せで先ずは五人前」
初めて見る店、初めて口にする味に、ユーリと師匠はほほぉーと興味津々だ。
師匠は渡されたおしぼりで手を拭き、僕にとっては貴重な情報を耳に入れた。
「世界広しと言えど、この街みてーに未来的なところはなかったぜ」
さすがはオーウェンだな、と褒めてくれる。
師匠はユーリを連れて世界中を旅していたようだ。
女大将が握ってくれた寿司を差し出すと、師匠とユーリは僕にならって食べる。
ユーリは寿司をそしゃくすると「おいひー!」と喜んで。
師匠も寿司を頬張り、揉み手で旨いと告げていた。
「旨い! 俺魚を初めて美味しいって感じたかもしれねぇな」
それは何よりです。
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