第19話 闇ギルド
ユーリの存在を知ったのは三歳ぐらいかな。
歩く練習がてら領主である父に連れられて彼女の家に遊びに行った。
彼女を視界に入れた瞬間、全身に電流が走った。
当時の彼女は絵画で見るような天使みたいだった。
陽光に透ける黄金色の毛髪とまつ毛、桃色に発色した唇と。
綺麗な藍色の瞳は異世界でも稀有で、本当に可愛い。
彼女の可愛さが衝撃的すぎて、僕は前世を思い出したくらいだ。
思い返せば、僕はユーリの父親に会ったことがない。
ユーリに父親がいないのは村中の人間が知っていたことだし。
深く踏み込んで聞こうとは思わなかった。
彼女は今、師匠と手をつないで歩いている。
師匠の言ったことが本当だとすれば、彼女はお父さんに会えたんだ。
彼女はお父さんと手をつなげていたんだ。
でも待て。
「師匠、コーディおばさんにちゃんと言わないと駄目だ」
「えぇ? 面倒だよオーウェンくん」
僕たちは都の西部にある冒険者ギルドの建物に向かって歩いていた。
僕は今日から都に住むと言ったら、アルベルトとハクレンも同行すると言い始め。
弟子がいなくなるのはきちぃ~! という流れで師匠も来る。
そしたらユーリまでも一緒するというのだ。
僕は両親と話し合ってここにいるからいいけど。
ユーリは何も言わずに、これまでお母さん役だったおばさんと離していいのか?
とりあえずこの先の話し合いは冒険者ギルドの本部でしよう。
中心部から歩くこと二十分、僕たちは冒険者ギルドの本部建物に着く。
一階部分に相当する敷地には支柱がたてられ、壁もなく吹き抜け。
地球で言うところの駐車場のようなスペースを確保している。
二階には一階にあるエレベーターでもいけるし。
二階に直接つながる外付けの階段もある。
今回は一階のガラス張りの自動ドアをくぐり、エレベーターに乗って移動しよう。
「メゾン・ド・ヒーローにもあるけどさ、エレベーターってのはすげぇな」
師匠、解説どうも。
エレベーターで二階に上がると深紅のカーペットで一面覆われていて。
左側には受付を仕切る壁があり、半透明のボードがそなわっている。
「この半透明のボードの説明しておきますね、例えばですけど」
このボードはいわゆるクエストボードの役目を果たしている。
一番目の項目にクエストの等級を示すF~Sの文字が記入されていて。
二番目にクエストの種類がのり。
三番目にクエストの概要が依頼者から三十文字以内で記載され。
四番目にクエストの報酬をのせる形だ。
その四種類の特記事項が一つのクエストの指標として掲載され。
冒険者は好きなクエストを自由に選ぶ。
冒険者はギルド本部から提供された冒険者手帳というデバイスでクエストを取って来るという寸法だ。
「師匠やアルベルト、ハクレンにそれぞれ渡しておきますね。失くしたら罰金か刑罰になるのでご注意を」
「へぇ、便利。サンキューなオーウェン」
「冒険者手帳には他にも便利な機能があるんですよ」
「例えば?」
「メール機能です、冒険者手帳を持っていればメールをやり取りできます」
僕であれば母さんに報告義務があるので今から実際に送ってみせよう。
「冒険者手帳を開いて、メールというメニューを選びます」
「ほんでほんで?」
「次に宛先を選びます、宛先はあらかじめ登録しておけば長ったらしいアドレスも未記入で選べます。僕は母さんに今回のことを報告するので、宛先は母さんに。その後本文の画面が浮き上がるので、手元で筆記してもいいですし、キータイピングで文章を打ってもいいです」
母さんにユーリや他のメンバーも残ることを伝える旨をしたためた。
「そしたら冒険者手帳の下にある送信ボタンを押してください、これでメールは送れました」
この冒険者手帳のお値段は3万ポイントとまぁ安くはない。
なので僕はとりあえず千セットほど購入した。
一回の買い物が無料になるクーポンを使って購入したので、実質無料。
のように、新機能としてついているクーポンも非常に役立っている。
月に一度、数種類のクーポンを配布されるんだけど、わくわくしちゃう。
「と言うことで、冒険者手帳の使い方は各人で覚えてね」
「手厳しいぜオーウェン、俺はお前の師匠だ、もっと手取り足取り」
「トビト、君も都に残るのなら、トビトにはギルド本部で受付やって欲しいな」
師匠の戯言はスルーし、トビトに受付をできないか聞いてみた。
彼は紳士なみなりで、読解力もあるし、恐らく忍耐力もそうとうある。
順応力があるのはルビーを見ればわかるし。
「いいですよ、その代わりユーリのそばに四六時中いられないですが」
「ユーリは僕の仕事を手伝ってもらうよ、だから問題ない、かな?」
ユーリに聞くと、彼女は真剣な眼差しでうなずいた。
「がんばる」
「という感じでどうでしょうか師匠?」
師匠は右手の親指を立てて差し出す。
「OKだ! コーディには俺から事情を伝えておく」
「その時はちゃんとユーリを同伴してくださいよ?」
「もっちろんだ! で、ここが冒険者のたまり場だとして、宿泊施設は?」
「僕の家だけは都に置かせてもらえましたので、しばらくは共同生活かな」
本部建物からさらに南の路地に入り、軒並みの一角に30年ローンの家がある。
師匠や兄姉弟子は僕の家を見つけると荷物を取りにいくといって一度村に帰った。
一人で家にこもっていても仕事は進まないので。
ギルド本部に向かい、色々とセッティングした。
例えば観賞植物はあった方がいいだろうし。
冒険者が休むためのソファも必要だろ? それと。
「オーウェン」
本部に色々設置しようと考えていると、母のギルドメンバーであるキースがいた。
キースは黒いバンダナで茶髪をおおったジャンパー姿の働き者なんだけど。
「キース? 何か用?」
彼の仕事場は村にあるギルドハウスだ、ここには何の用だろう?
「ああ、ちょっとお前に選んで欲しいんだけどさ」
「相談なら乗るよ、何を選ぶのさ」
「まぁ待て、その前に説明させて欲しい」
「うん」
「実は俺、あの商人ギルドに所属する以前に闇ギルドに所属しててさ」
闇ギルド!? 犯罪者集団のことだぞ。
キースは僕にうろんな眼差しを向け、言う。
「冒険者ギルドの仕事に、闇ギルドの人間を捕まえるとかってあったりする?」
「それは……」
「当然あるってことだよな、その沈黙は。そうなると俺とお前って敵なのかな?」
「……さっき選んで欲しいって言ってたけど、何をって聞いてもいい?」
「俺の闇ギルドと、冒険者ギルドで不可侵条約を締結でもしないか? それとも」
――ここでお前死ぬか?
「簡単なことだろ、選べよオーウェン」
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