第18話 彼女の父親について
その日、僕は都の中心部にある騎士学校の生徒を集め。
学長ルーズベルト指導のもと、冒険者ギルドの発足を宣言した。
すでに冒険者ギルドに内定している冒険者がいる、それは。
「勇者イクシオン、彼は今日からS級冒険者として在籍します。他にも剣聖の孫のアルベルト、大聖者の孫でハクレンもS級冒険者として在籍することが決定しています。これを機会に皆さんも是非冒険者ギルドにご登録ください」
スピーチ後、腰からお辞儀して生徒たちに冒険者ギルドへの加入を頼んだ。
学長はこう言っていた。
「オーウェンの冒険者ギルドには我が校の卒業者からも多数の内定者を輩出する予定だ。これは画期的なことなんだよ。私の若い頃の話をしよう」
学長の昔話は小一時間続いた。
僕のスピーチも長かったけどさ、辛かった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドの説明を生徒たちにした後、ちょっと融通してもらい、ジミーを連れ出した。ジミーを連れて向かったのは先日のメイド喫茶で、兎の亜人トビトと一緒にユーリが待っていた。
「ジミー」
ユーリを見つけたジミーは笑顔になり、さっきの僕をあしざまに説明する。
ユーリはジミーの話に楽しそうに耳を傾けていた。
「ユーリも冒険者ギルドに入れよ、俺も入るからさ」
え? 騎士学校に通って日ごろから訓練している生徒とは違い、ユーリは無力だ。
ジミーは俺が守ると言いたいんだろうけど、ちょっとねぇ?
言い出せずにいると、同行していた師匠がフォローする。
「ユーリには無理だな、冒険者の才能ゼロ」
「酷すぎるだろ」
師匠の言葉がショックだったみたいだ、ユーリは見るからにへこんでいる。
その時、ジミーの天然が発動した。
「あ、俺時間だから行くわ、じゃあな二人とも」
ジミーのことだから微妙な空気にいたたまれなくなった、とかではないと思う。
たぶん本当に時間が押していたから帰った。
ジミーが帰ると師匠も席を立つ。
「さぁ、俺達もそろそろ帰ろうぜ。ブスが首を長くして待ってるしさ」
「それ僕の母親や」
他人の母をブスと簡単に言うなっちゅう話。
お会計をすませようと伝票をもって一階のカウンターに向かう。
カウンターではトビトのつがいとして召喚したルビーがいた。
「お会計ですか?」
「うん、ルビーがレジ打つの?」
「この店の業務でしたら一通り覚えましたので」
ユーリと一緒にいるトビトも紳士的だし、彼らの種族は優秀なのかもしれない。
店先に出ると師匠が両手で伸びをして、あくびをする。
「眠いな、年取るとどうしてもこの時間だろうと眠くなる」
「師匠はまだまだ若いですよ」
「お前にいたってはまだ十歳になってないしな、さぁ帰ろうぜ」
「ええ、母や父によろしく言っておいてください」
師匠やユーリと距離をとり、手を振った。
師匠は困惑したようすでこう言うんだ。
「一緒に帰らないのか……?」
「母との約束なので、一人前になるまで帰ってこなくていいそうです」
「あのブス! こういう大事なことは伝えておけよな」
僕の住処は今日から、この都に移す。
30年ローンの家は、ギルメンの誰かにお任せして。
兄姉弟子のアルベルトとハクレンはつぐんでいた口を開いた。
「イクス様、俺はオーウェンについていこうかと思います」
「私もオーウェンにしばらく同行しようと思いますが、師匠はどうされますか?」
え? 嬉しい申し出だけど、いいの?
愛弟子二人の発言に、師匠は笑った。
「弟子がそろっていなくなるのはきちぃ~、それじゃあ俺もここで暮らすか」
でもそうなると、ユーリが独りになってしまう。
ユーリが寂しくならないようトビトを買ったとはいえ、突然いなくなりすぎだ。
ユーリもそのことを気取ったのか、僕にしがみついた。
「……!」
寂しいからだったのか、彼女は血相を変えて震えている。
そんな彼女に師匠は上着を掛けて言ったんだ。
「お前も来い、ユーリ」
「うん」
いやいや、あっさりしすぎだろ。
「ユーリ、そんな簡単に答えちゃ駄目だ。君の人生を左右する」
聞くと、ユーリは両目から大粒の涙を流し始めた。
ジミーと別れたあの時のように。
師匠は僕の首根っこをつかんで、何故かユーリと距離を取らせた。
「お前余計なこと考えすぎ言いすぎやりすぎ」
「常識でしょ、彼女の家はここじゃないし、家族とも離れる決断になるんですよ?」
ユーリのお母さんが今もメゾン・ド・ヒーローで待っている。
師匠はそんな僕の杞憂を、ある裏事情をばくろして思考を停止させた。
「ユーリの父親は誰か知ってるか?」
「いいえ、彼女と知り合ってから一度もあったことありません」
「じゃあユーリの本当の母親は誰か知ってるか?」
「ユーリのお母さんはコーディおばさんでしょ?」
「コーディは乳母だよ、ユーリの実母は違う人だし、何より父親は俺だ」
……マジ?
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