第17話 冒険者ギルド発足
「くそう!」
ユーリの誕生日プレゼントとして二足歩行の兎の亜人トビトを贈った。
ユーリはトビトに抱きついて彼や贈り主のハクレンの心を癒した。
僕としても非常にめでたい気分でいれた。
なのに母さんが珍しく気を立てている。
くそう! と言ってギルドの自席の机に両手を打ち付ける。
「どうしたの?」
「最近店の利益が下がっているのよ、その原因を調べたら」
原因は競合店による商品のコピーだった。
これによって専売特許で飛ぶ鳥落とす勢いだった店の売り上げも減ったらしい。
「まぁまぁ、元々母さんの発明品じゃないんだからさ」
「だから!? オーウェン、これは言わないつもりだったけど」
な、なんですか?
「貴方の新事業への融資はどこから来てると思う? 一番のスポンサーは私なの」
えぇ……それまで僕が自らホーネットさんやお偉いさんを説得して得ていたと思っていた新事業への融資は、母さんの説明によると裏で母さんがとりまとめていたらしい。
僕に前世の苦悩の記憶がなかったら心がぽきっと折れていた真実だった。
まぁいい、例えその相手が母だろうとスポンサーはスポンサーだ。
僕は今日、ジミーに会いに行く。
正確にはジミーが所属する都にある全寮制の学校を訪問するんだ。
ギルドハウスで子供用のスーツに着替えると、母が笑っていた。
「
「あんたの息子や」
などと母やギルメンと談笑して待っていると、着飾った師匠もやって来た。
「準備出来たぞ」
師匠は白い
ハクレンは女性らしくドレスを身に着け、全員母から笑われていた。
「ごめんなさい、今の母さんは気が触れていて」
「誰が気が触れてるって!? それがスポンサーにいう台詞として正しいと思うの?」
僕の口から三人にさっさと行こうというと、師匠は母を笑い飛ばしていた。
「はっはっは、醜い親子喧嘩はよせよブス、じゃあなー」
あとが怖いだけの悪口はやめて欲しい。
母さんはそんな師匠に中指を立てていた。
ハクレンの転移魔法によって僕たちは学校の広い講堂に向かう。
講堂には学校の生徒が整列した状態で待っていて。
突如として現れた僕含む四人にどよめいていた。
「転移魔法……? ってあの人、イクシオン様じゃないか?」
師匠の正体が割れると、講堂に集った生徒たちが黄色い悲鳴を上げ始めた。
師匠は得意気な笑みで手を上げて応える。
師匠は講壇にいた人と知人だったようだ。
「先生! まだ現役だったんですね、素直に驚きました」
師匠から先生と呼ばれたのは僕のスポンサーの一人でもある学校の長だ。
名前をルーズベルトと言う。
「ずいぶんと出世したなイクシオン、他のものはどうした?」
「連中が今どこで何をしているかは俺も知りません、今日は弟子の宣伝ですよ」
「なんと、彼はお前の弟子だったか」
二人の視線を受けて、僕は腰からお辞儀をした。
師匠は不敵な笑みをこぼし、学長は僕を手招く。
魔法の拡声器の下まで連れて行き、彼は眼下にいる生徒にこう言っていた。
「諸君に紹介したい人物がいると言ったな、その人物とは勇者イクシオン」
師匠が学長の紹介に預かり、左腕を高くあげるとまた歓声があがった。
「ではなく、今日紹介したい人物はこのお方だよ。彼の名はオーウェン」
学長の続けざまの台詞に、場はしーんと静まり返る。
しかし、講堂の後ろの方にいた聞き馴染みのある声が僕に声援を送っていた。
「頑張れオーウェン!」
ありがとうジミー。
学長はジミーの声に、眉を開いて言った。
「諸君、名声だけで人を判断してはいけない。勇者イクシオンは確かに歴史に残る功績を打ち立てた偉人だ。君たちが憧れ、目指すのも無理はない。だが――こちらにいるオーウェン殿はイクシオン以上の偉人になり得る。私は彼からある事業について相談され、それに応じた。その事業について本人の口からご説明をいただこう」
学長からマイクを渡された僕に、緊張などなかった。
それはひとえにジミーの声援のおかげだった。
「初めまして、僕の名はオーウェン。勇者イクシオンの弟子の一人です。勇者様は僕にとって良き師匠であると同時に、いつか越えなければいけない存在です。時に皆さんは自分の将来についてどうお考えでしょうか」
勇者イクシオンのような勇者になる? それは不可能。
何故なら勇者イクシオンは世界を救い、敵はほぼ全滅しているのだから。
「とすると、皆さんは将来どうやって食べていくおつもりでしょうか。国の公職について公金で、ですか? それじゃあ公職に就けない、または就きたくないという皆さんにお聞きします、どうやって将来の生計を立てるのでしょうか」
ジミーのように騎士として国の公職に就こうと志しているわけでもなく。雰囲気で、格好がよさそうだったから、周囲に勧められてここに来た生徒も少なくないだろう。
彼らの行く末は定かじゃないが、僕はそんな彼らにある提案をしよう。
「僕ことオーウェンは、皆さんにあるご提案をしに本日は参りました。それは皆さんの将来の生計に役立つ提案です。今から皆さんのお時間を僕にください。あるものをお見せいたします」
僕は持っていた手提げ袋に手をやり、講壇の目前に映像を出した。
予め撮影していたもので、この学校に通う低学年の一人にこう質問した。
『お名前とご学年を教えてくれますか?』
『ソネット、騎士学校初等科、二年生です』
『君は何が得意なの?』
『雑草取りです』
ソネットの回答に講堂にいた生徒たちは笑う。
『雑草取りが将来どう役に立つか考えたことはある?』
『ざ、雑草の中にはまれに薬草もあります』
『薬草の値段がいくらか知ってる? たぶん銅貨五枚くらいだよね?』
『そ、そうですね』
『ソネットに聞くね、雑草取りが得意な君は将来をどう考えてる?』
『えっと、とりあえず学校を卒業して、お母さんの病気を治したい』
『そのためには治療費が必要だよね、どこから持ってくるの?』
『……』
ソネットは黙ったまま頷き、答えられずにいた。
次のコメントは彼女よりも上の学年の生徒に聞いたものだ。
『お名前とご学年を教えてくれますか?』
『マーシャル、騎士学校中等科、二回生』
『何がお得意ですか?』
『剣術、最近だと自主的に学区外にいってモンスターを狩っています』
『モンスターを狩ると何がありますか?』
『世界が平和になる』
『質問を変えますね、モンスターを狩るとお金を落としますか?』
『お、落とさないと思いますけど?』
そこで僕は映像を止め、再度生徒たちに聞いた。
「皆さんは将来どうやって生計を立てますか、雑草取りが得意なソネットさんはその答えがわからず、マーシャルさんからも特にそれらしい回答はありませんでした。僕が提案するのは二人が出せなかった答えの一つです」
雑草取りを得意とするソネット、彼女は薬草なら売れると答えた。
しかし僕のユニークスキルを通せば、雑草すらも売れる。
モブ狩りを得意とするマーシャルは先日師匠が推察したように。
僕のユニークスキルを通せば、ポイントに還元できるのだ。
僕の口から生徒にそのことを説明し、最後にと言って講義を終わりに持っていく。
これまで、彼らのモブ狩りや雑草取りに生産性はなかった。しかし――
「これからは違います。モンスターを狩ることによって皆さんはお給料をもらい、雑草を取ることによってお給料が出ます。それは僕が創設者として発足する――冒険者ギルドを通じて可能になるのです」
僕からの提案としては、つまりこういうことである。
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