第16話 亜人トビト

 敬愛する幼馴染のユーリの誕生日が近づいてたある日のこと。


 ユーリの家には都の全寮制の学校にいるジミーから一足早いプレゼントが届いていた。


 それを見て対抗心を燃やしたのが、僕ではなく姉弟子のハクレンだった。


 ハクレンは最近になってユーリを妹のように可愛がっているから。


 僕は裏でホーネットさんの協力をこぎつけ、自分の店を持つ計画を進めている。都へはハクレンの転移魔法で往復していたので、必然的に彼女と二人になる機会も多かった。


 都の西部にて、ホーネットさんと店舗の建設予定地を見学し。

 見送られるようにハクレンと二人きりになった。


「オーウェン、ユーリさんの誕生日が近いみたい」

「わかってるよ」

「私からも彼女に何か贈りたい、協力してくれる?」


 いいけど? 何を贈るつもりなのだろうか。

 と言うことで、ハクレンと相談するため近くの喫茶店に向かった。


「ここも母さんの店でさ、よく自慢してた」

「そう、入りましょう」


 ハクレンを先頭にして、母さんご自慢の喫茶店に入る。

 店内に入ると、まず凝った造形のカウンターが目に入った。


 カウンターには呼び鈴がついていて。

 手押しで鳴らすと奥からゴシックなメイドがやって来る。


「いらっしゃいませ、二名様ですか? ご案内します」


 その店を一言で表すのなら、古風なメイド喫茶だ。


 二階建ての店で、店内の造形は地球で言うところのバロック様式。


 細部までこだわった芸術的な木工細工が目立つ。


 ハクレンは僕と同じメニューで、苺のショートケーキと紅茶を頼んだ。


「ユーリさんの誕生日プレゼントだけど、彼女はペットを欲しがってる」

「へぇ、知らなかった」


 さっそく【ネット通販】を伝ってペットで検索した。


 多種多様なペット候補がちんれつされる。


「この子なんか可愛いし、彼女も気に入ると思う」


 ハクレンは数あるペット候補の中から、二足歩行の兎を選んでいた。

 兎なのに黒いハット帽とスーツの上着を着ている。


 そのお値段は30万ポイント。


「……プレゼントしてもいいんだけどさ、一つだけお願いがあるんだ」

「何?」

「このプレゼントは、僕とハクレンの二人からってことにしてくれない?」

「それでいい」


 じゃあ、ぽちっとな。

 配達先を現地に指定し、30万ポイント支払って彼の兎を召喚する。


「……はは、返品しようか?」


 僕は、その兎は地球のサイズ感で想像していた。

 しかし実際に届いた兎は僕より体格に優れる。


「おや、ここは一体どこでしょう?」


 しかも喋りやがった。

 ショートケーキと紅茶を持って来たメイドさんは驚いて器を落としてしまう。


「っ!? 私の理想だった幻想生物さんが現れてくれた!」


 違います、彼は僕たちのペットです。

 彼にはすでに名前があった。


「どうやらお二人が私をここへつかわせたみたいですね、トビトと申します」

「私はハクレン」


 どうも、オーウェンと申します。

 自己紹介をすませるとトビトは頭につけた小さなハット帽を取ってお辞儀していた。


「よろしく」


 背後にいたメイドさんは両手を口にあてて慌てたようすだ。


「KAWAII」


 ハクレンとショートケーキを頂いている中、トビトの取り扱いを聞いた。

 例えば普段は何を食べているのか。


「野菜が主体ですね、草食ですので」


 寿命はどのくらいなのか。


「持って七十年くらいでしょう」


 大きな病気はあるのか。


「持病はありませんが、寂しいと死にたくなります」


 まるで兎みたいやね。

 彼はメイドさんからニンジンを貰い、ぽりぽりぽりぽりと食べていた。


 ハクレンは紅茶を飲んで、ふぅと艶めかしい吐息をこぼす。

 その光景はこの店のメイドが鼻血を出すほど愛おしいものだったらしい。


 その後、退店。

 支払いをすませる際に僕はメイドさんに素性を教えた。


「実は母がこの店の経営者なんですよね」

「そ、そうだったんですね……あの」

「はい」

「トビト様にはつがいが必要ではないでしょうか?」


 ああ、寂しいと死にたくなるって言っていたしな。


「彼にその相手を用意したいのは山々なのですが」

「な、何か問題が?」

「単純にお金が足りなくて」

「私のお給金で支払います!!」


 と言うことで、トビトのつがいとしてルビーという名のペットもその日づけで購入。

 ルビーはこの店でメイドさんと一緒に頑張ると言っていた。



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