第15話 巣立ちの時

 学校から許された面会時間が過ぎると、ジミーはきびすを返した。


「やっべ、もうこんな時間か、俺行くわ」


 ユーリがジミーの台詞、またねと言うと。


「またな! オーウェン、ユーリに変なことするなよ!」

「しないよそんなこと!」


 ジミーは僕に釘を刺して消えていった。

 その後、僕は三人に少し都を見て回ろうと提案した。


 兄姉弟子の二人はその理由を聞く。


「仕事上の都合? 都で商売しようとしているのに、都のことを知らないのはハンデだから」


 アルベルトは僕の返答に俺は構わないと無粋な感じで応えた。

 ハクレンも問題ないとのことで、ユーリの手をとって都を探索した。


 僕たちは都の中心部から北に向かった。

 そこは都にあるスラム街で、アルベルトやハクレンがいなければ訪れない場所だ。


 どうやら近くで放火事件があったばかりらしくて、治安の悪さを証明していた。


 アルベルトは黒いサマーセーターを口元にはわせ、鍛え抜かれた腹筋をチラ見せする。


「治安が悪そうだな」

「もしかしたら僕が店を構えることになる地区の候補の一つです」

「大丈夫なのか?」

「ちゃんと警護もつけますよ」


 僕たちの身なりを見た物乞いが手を差し出している。

 ユーリはその人に銅貨を渡そうとして、ハクレンから止められていた。


 アルベルトは何かを気取ったのか、僕の肩をつかんだ。


「引き返すぞ、ここにいるとトラブルの元にしかならない。ハクレン」


 ハクレンは転移魔法の魔導書を手にし、四人を家の前へと転移させた。

 アルベルトが言うには誰かに狙われていたらしい。


 30年ローンのマイハウスの前には師匠がいた。


「お帰り」


 アルベルトは師匠のそばにより、いつの間にか手にしていたお土産を渡す。


「ただいま戻りました、こちらはお土産になります」

「おー、この匂いはお酒か? アルベルトは他の弟子とは一味違うな」


 師匠にお酒を渡したららめぇー!

 仕事熱心で、他に対しては大らかな父ですら止める酒癖なのだから。


 仕方ないから僕は【ネット通販】を操作し、ノンアルコール飲料で師匠を釣った。


「師匠、そんな安酒よりもこっち飲んだ方がいいですよ」

「安酒だってさアルベルト」


 師匠がことさら誇張すると、アルベルトはため息をついていた。


「この人には安い酒で満足してもらうぐらいでちょうどいいんだよ」


 師匠に十数年連れそった俺だからわかることもあるんだ。

 と、アルベルトは今の台詞が失言だったのに気づいていないみたいだ。


 師匠はアルベルトから差し出された酒瓶のふたをきゅぽっと開けてあおり始めた。


「十数年、長いようで短かったな」


 僕はユーリの手を引き、30年ローンの家で彼女をかくまうよう隠すと。

 ハクレンも感づいていたのか、僕たちについて来た。


「アルベルトははっきりいって馬鹿」


 ですよねー!

 すると師匠の大音声が外から木霊した――勇者を舐めるんじゃねぇえええ! と。


 ◇ ◇ ◇


 後日、母の下にホーネットさんの返事の手紙が届いたみたいだ。

 母のギルドハウスでいつもみたく発注書にそってネット通販を操作していると。


「オーウェン、ホーネットさんがこの間の話の詳細を聞きたいってさ」


 母は快活な顔で伝え。


 僕が――両親のもとから巣立つ時を告げているようだった。

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