第14話 チャンス

 翌日、母に言われたとおり村から離れた都にいるホーネットさんを訪ねた。


 連れそいとして兄姉弟子のアルベルトとハクレン、それからユーリも一緒した。

 ホーネットさんとの打ち合わせが終わり次第、ジミーに会いに行こうと思うんだ。


 以前ハクレンが占いで指示してくれた都の一角の家を訪ねる。

 都の外壁側のゆるやかな上り坂にある家だった――コンコン。


 家の扉をノックすると、ホーネットさんご自身が顔を出す。


「お、君はレイラ殿の息子さんだね。今日はどうしたんだ?」

「今日は仕事の話をしに参りました、これは母からの書状です」


 ホーネットさんは母さんからの手紙を読むと、僕達を中に通した。


「風情あるお家ですねー」


 ホーネットさんの家はアンティークでまとめられていた。

 大きな古時計だったり、居間にあるテーブルに椅子も骨董品だ。


「趣味だよ、アンティーク収集は」

「素敵なご趣味だと思います」

「ありがとう、それで、オーウェン、手紙によると君のユニークスキルは相当優秀なようだね?」


 そこで僕は母から提案された通り彼の援助を取り付けるよう動いた。


「僕のスキルであれば都で新しい雇用を生みだすことが可能だと思います」

「先ず、どうやって雇用を生みだすんだ? 仕組みを説明してくれ」


 ホーネットさんの疑問に、スキルの新機能を説明した。


 僕のスキルを介せば、それまで必要とされなかった雑草や路傍の石もポイントに変えられる。これは母と一緒に試験して確認済みだ。そのことで雇用する側にもメリットが生まれる。


 都の内外における雑草取りだったり、モブモンスターの討伐においても最終的にポイントに変えられて、雇用する側はネット通販を介して商品となる品物を手に入れることが出来る。


 説明を終えると、ホーネットさんは今回の動機について聞き始めた。


「雇用を生みだしてどうする?」

「最終的には都を活性化させて、母さんの店の売り上げに貢献できればと思っています」


 雇用を生みだす → 購買意欲が生まれる → 母さんの店の商品も売れる。

 このサイクルだ。


 しかし、個人的に思うのは。


「それとは別に思う所があって」

「と言うと?」


 僕は隣に座っていたユーリをホーネットさんに紹介した。


「彼女の名前はユーリって言います、僕の幼馴染です」

「はじめまして」


「正直、彼女の家は僕の家とはちがい貧しいです。僕は彼女の家のような領民さんたちの労働によって支えられているのに、見返りがないのはおかしいと思うんです。僕の家も、彼女の家もお互いに豊かになっていくのが理想です」


 その第一歩として、母さんは僕を試す一環で新事業をたくした。


 本人がやればいいのに、とも言ったけど、母さんが言うには。


「しかしその理想においても、母は自分の食い扶持ぐらい自分でまかなえと言います。ですので供給するだけじゃなく、皆さんには単なる貧困層から、チャンスを与えられた雇用者に変わっていただこうかと。僕がご提案できるのは単に貧困を救うのではなく、都の皆さんにそれまでなかった選択肢を供給できる事業だと思っています」


 新事業のためには都側の人間の許可が必要になる。


 ホーネットさんにはその許可を貰ってもらいたく、今回は訪問した。


 ◇ ◇ ◇


 ホーネットさんに新しい事業を提案し、返事は後日となった。


 その後はユーリを連れてジミーを探した。


 姉弟子のハクレンが占ってくれ、都にある騎士学校の校門へと向かう。


「あ、君か。先日はありがとう。娘は例の誕生日プレゼントを誇らしげにしているよ」


 校門には警備兵がいて、その内の一人が先日交渉した衛兵さんだった。


「この学校にいる幼馴染に会いに来たのですが、どうすれば面会できますか?」

「その子の名前は?」

「ヴァレンタイン領のジミーです」

「確認を取るので少々お待ちいただけますか?」

「はい、それと先日はこちらこそありがとうございました」


 十数分も待っていると、校門の奥手からジミーが駆け足でやって来る。


「ユーリ! それから唐変木のオーウェン!」


 誰が唐変木だ、誰が。


 そして僕はいつの日かあったように、ユーリとジミーの三人で一時の懐かしい時間を持つのだった。

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