第20話 ユーリのユニークスキル

 キースは闇ギルドの人間だった。


 闇ギルドを簡単に説明すると、魔族側に傾いた人間のギルドだ。

 勇者イクシオンともしのぎを削り合い。

 勇者が魔族の長を打ち滅ぼした後は、自滅したとされていた。


 しかしそれは平和を願う僕たち民の妄想でしかなかった。


 などと回想しているけど。


 僕――死んじゃったみたいだ。


 キースの都合に合わせられずにいたらバッサリやられた。


 彼の引っ越し作業を手伝ったり、普段から仕事手伝っていたからかな。


 最期は苦しまず死ぬようにしてくれたらしい。


 せっかく冒険者ギルドを創設したばかりだったのに。


 無念に堪えないよ、色々と。


 それでも最期に思えたのは、みんなのことだった。


 これまで僕を支えてくれた人たちや。


 これまで僕に温かい笑顔を送ってくれた人たちのこと。


 かいつまんで僕ことオーウェンの異世界人生を語ろう。


 僕は十歳に満たない若さでユニークスキルに目覚め。


 そのスキルで色んな人の役に立ち。


 結果的に両親を悲しませた。


「……っ!?」


 死んだはずなのに、両目を開くことができた。

 また転生したのかな? と思ったけど、身体をみるとオーウェンの物だった。


 僕の意識が覚めたのに逸早く気づいたのは兎の亜人トビトだった。


「心配しましたぞ、オーウェン」

「あ、うん、何がどうなったの? 僕は死んだんじゃなかったの?」

「貴方はユーリのユニークスキルでこの世に蘇ったらしい」


 ユーリの? しかも蘇った?


「今ご両親を呼んできます、少々お待ちを」


 トビトはそう言うと急いで立ち去り、僕は周囲を見渡した。

 今いる場所は父の屋敷の僕の部屋みたいだ。


 この部屋の風景も懐かしく、父や母が来るまでの時間が一瞬に思えた。


「オーウェン!」


 父は僕の名前を感極まったようすで呼ぶと、胸に抱き寄せた。


「ごめんなさい」

「いいのだ、生きてくれていればそれで……!」

「ユーリが僕を蘇らせたって聞きました」

「……あれにはその才能が眠っていたんだ、何せ彼女の母親も同じユニークスキルを持っていたからな」


 父はユーリの本当の両親について知っているみたいだった。

 師匠が言ったことは正しく、彼女のお母さんはコーディさんじゃない。


 次に母がやって来た、父は母さんを見て居づらそうにしている。


「母さん」


 と声を掛けるのだが、父は母さんから僕を引き離そうとする。


「思えば、お前の強引な指示がこの子を死にたらしめた」

「ええ、わかってます、ごめんなさい」

「ふざけるなっ!! 言葉ではなんとでも言えよう、こんな時までプライドを優先するのか!!」


 生まれて初めて見た、父が母に向かって上から何かを言う場面を。父が保守的な性格なのに対し、母は野心家で、アンバランスな夫婦だなと思ったりもしたけど、それはおいといて。


「父さん、冒険者ギルドは僕の夢です、母さんは悪くない」

「いいじゃないかオーウェン、たまには叱っておかねばならん。でないとレイラは素直に泣けないんだよ」


 そう言って父は僕を母のもとにやり、母は顔を確かめたあと僕を強く抱きしめた。


「ごめんねオーウェン、ごめんね……っ!」


 生まれて初めて見た、母が悲しみから涙している場面も。


 色々聞きたいことはあるが、死後の今ぐらいは両親との時間を大切にしようと思った。


 ◇ ◇ ◇


 あの後、アルベルトの口から僕が殺されたあとのことを聞いた。


 僕の死体を発見したのは師匠とユーリだったらしい。

 ユーリは僕に駆け寄って悲痛な叫び声をあげていた。


 ハクレンは独自の占いによって僕を殺めた犯人キースを突き止め。

 師匠はアルベルトと一緒に都にいた闇ギルドの人間を一掃。


 ハクレンはわんわんと泣くユーリのそばにいてあげたらしい。


 その時ユーリのユニークスキルが覚醒したみたいだ。


 息を失くし、体温を失っていた僕が急に息を吹き返した。


 その光景を目撃した師匠はこう口にしたようだ。


 ――ユーリを連れて旅にでる。


 だからこの場にユーリと師匠はいない。

 兄弟子のアルベルトにどこに行ったんだろうって聞いた。


「危険な場所、平和な街、この世の絶景だったり、色んな所に連れて行くんじゃないか?」


 アルベルトは長くなった黒い前髪をいじりながら答えた。


「どうして一緒に行かなかったの?」

「俺はここに残った方が大成できると思ったからだ、忘れてないだろ?」

「って言うと?」

「俺はS級冒険者の一人なんだろ?」


 アルベルトのこの言葉が、僕の迷いを断ち切った。

 アルベルトがいなかったら冒険者ギルドは解体するところだった。


 その後、冒険者ギルドを再開すると言ったら、母から平手打ちされた。


「冗談のつもり? 笑えないからね」

「母さんこそ冗談のつもりですか」

「貴方は冒険者ギルドのせいで死んだの! 私はもう……貴方を失いたくないの」


「確かに冒険者ギルドは闇ギルドに狙われるほどの危険な代物だった、そのせいで僕は死にました。だけど裏を返せば冒険者ギルドは周囲が認めるほど、影響力の大きい革命的なことだったんだよ」


 母さんの言いたいこともわかる。

 僕も誰かの父親になったら母のように反対するだろう。


 けど、冒険者ギルドは死んででもやる価値のあるものだと信じている。


 僕は母さんにそのことを伝えた、それに。


「それに、二度と死ぬつもりはありません」


 両親を僕の熱意で説得するのには骨が折れたけど、冒険者ギルドはこうして再開した。再開後はアルベルトを護衛につけて都にある本部建物で冒険者登録しに来る人材を待つ日々が始まった。


 闇ギルドの件や、僕が初日で落命した事案を受け、本部は閑古鳥が鳴いている状態だけど。数年後には冒険者ギルドの知名度はうなぎ上りになり、本部には数多の冒険者でごった返すようになる。


 その未来を知らなかった僕は冒険者の受付窓口で頬杖をつき、なんとも言えない笑みを零していた。


「まぁ、着実に、ゆっくりやっていこう」

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