第10話 ネットショッピング

 ホーネットさんの件で全ての気力を使い果たした。

 母から仕込まれたメッセージカードを見て、僕は呆然自失とし。


 都の広場で空をぼけーっと眺めていた。

 隣に姉弟子のハクレンを付き添わせて。


「もうそろそろ帰らない?」

「あ、今何時?」

「大体だけど、夜の八時?」


 やべぇ、母さんに怒られる!

 家の門限は遅くても午後五時なのに、三時間も超過してしまった。


 帰ろうとしたけど、知り合いがそれを止めた。


「何やってるんだよオーウェン」

「あ、ジミー」

「お前一人だけか? おじさんかおばさんはどこだ?」


 久しぶりー、と言っても別れてから一週間かそこらか?


「元気にしてる? 騎士学校の暮らしはどう?」

「まだ始まってないけど、期待してもいーんだぜ?」

「いいなー、僕も騎士学校に入ろうかな」

「え?」


 え? ってなんだよ。

 隣にいたハクレンがよしよしと頭をなでて、まるで同情しているようだった。


 ジミーはハクレンが気に掛かっていたみたいだ。


「あ、彼女はハクレンって言って、勇者イクシオンさんの弟子だよ」

「そ、そんな人とどうして知り合いなんだよ?」

「ジミーに渡したアレの件の後も色々あったんだよ」


 僕は彼と別れるさいに聖剣装備なるかじょうな品を贈っていた。


 その後、師匠が家にやって来て師匠を名乗り始めて。


 師匠から独立を仄めかされ、全てを母にみすかされて今ここにいる。


 偶然再会したジミーにそのことを伝えると、彼は笑った。


「ははは」

「なんか全てに疲れたけど、ジミーに会ったらどうでもよくなったな」

「そうだな、あ、俺もそろそろ帰るわ」


 は!? つい話し込んでしまったけど、今何時だ!?

 僕も腕時計の一つぐらい持つべきだな、にしても母さんに怒られる。


 ジミーは訓練用の木剣を手にしてかつぐと、別れ際にこう言った。


「オーウェンさ、転移魔法なんて便利なものあるのなら、たまには会いに来いよ」

「ユーリを連れてくればいいんだろ?」

「そーゆーこと、じゃあな」


 言い訳としてはこうだ、ジミーと偶然会っていて、話し込んでいたらこんな時間。

 家に帰ると、母さんの姿は見えなかった。


 ほっと胸をなでおろす。


「門限破りのオーウェン、お帰り」


 しかしそれは僕の勘違いと言う名の幻想。

 母さんは背後から声を掛けると同時に僕を羽交い絞めにして。


 あごで頭頂部をぐりぐりとしていた。


「あんた、最近になって私との約束を破るようになったね」

「はい、僕が愚かなのです」

「……まぁ今回は私も悪かった、けどそれは門限破っていい理由にはならない」


 あ、はい。


 ◇ ◇ ◇


 疲れ切った僕はお風呂に入り自室のベッドで熟睡しきった。

 師匠が僕の顔に悪戯書きしたけど起きなかったからという理由で。


 翌朝、目が覚めると師匠が隣で泣いていたんだよ。


「うわあああ!」

「お前はまだ九才なのに、なんて可哀相なんだオーウェン」

「なんでいるんですか! それに酒臭っ!」


 元勇者の師匠は泣き上戸だった件について。

 と言うタイトルを業務日誌にて記しておきました。


 その日もギルドハウスで仕事を終えて、一足先に帰宅した。

 帰路の途中、ユーリのお母さんに呼び止められる。


「ユーリがね、最近になって勉強を熱心にやってるの」

「へぇー、僕の家だとゲームしてばかりだけど」


 あ、余計なこと言ったかもしれない。

 しかしユーリのお母さんは失笑するだけで許していた。


「っまぁ、それはそれとしてね? あの子が自主的に勉強するようになったのはオーウェンくんの影響が大きいのかなって」


「いえ、ユーリは元々そういう人柄だから」


「ありがとう、オーウェンくんがいれば、あの子も安心して暮らせる」


 僕とユーリはお互いの両親公認の仲、ってこと!?


 そう言えばそろそろ彼女の誕生日が近いな。


 今年は何を贈ったものか。


 のどかな農村のあぜ道で、畑の上を駆ける風の音を耳にすると心も癒えた。


「ただいまー」


 ユーリのお母さんによると、彼女は今日もこの家に来ているらしい。

 玄関にはその昔彼女に贈ったピンク色のランニングシューズがあった。


 他にもハクレンの靴もあって、二人の姿を少し目で探した。


 二階の居間に向かうと、ハクレンがユーリに本を読み聞かせているみたいだ。


 ハクレンが僕に気づき、ユーリも僕に気づいた。

 ユーリは無表情ながらも僕に手を振る。


「おかえり」

「ただいま、二人で何をしていたので?」


 尋ねるとハクレンは立ち上がった。


「彼女に私の故郷に伝わる絵本を読み聞かせてました」

「どんな内容ですか?」

「ユーリの口から聞いた方が早い」


 そ、そかー。

 ハクレンも寡黙だし、兄弟子のアルベルトも朴訥な人柄だし。


 周囲の人間、口数少なくね? って思う反面、母さんが喧しいだけかとも思った。


 ハクレンは僕の横を通って冷蔵庫からコーヒーをとって僕に渡した。


「オーウェン、昨日の約束は?」

「も、もちろん忘れてませんよ」


 彼女は僕を助けてくれる代わりに替えの衣服、装備類を求めた。

 どうせならアルベルトにも贈ってやりたいし、師匠にもか。


 ユーリの隣に腰を下ろし、僕はハクレンに座るよううながした。


 彼女は逆隣に座った後、ログインと唱え、ネット通販のスクリーンを表示させる。


「どんな品がいいですか?」

「どんなものがあるの?」

「まぁ、転移魔法の魔導書なんてものもあるぐらいだし」


 ハクレンが望むおおよその代物はあると思う。

 僕は美少女二人にはさまれる格好で、ネットショッピングを楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る