第8話 誕生日プレゼント

 師匠は言った、僕のユニークスキルを進化させるためにスキルをガンガン使えと。


 そうしたいのは山々だけど、それにはお金が必要だ。


 そしたら師匠は、なら金策しろと当たり前のことを言う。


 僕はジミーのためにしてしまった横領事件の顛末を話したうえで。


「母の信用を失い、自由に使えるお金はほとんどありません」

「はっはっは! それは不幸だったな、よし、諦めるか」

「ええ」


 師匠による僕の育成計画はその日に終わりましたとさ。


 翌日も母の手伝いのためギルドハウスに向かおうと玄関に下りた。

 師匠は眠気眼をこすり、僕のスキルで購入したシルクのパジャマ姿で見送る。


「お前、もう独立してもいいんじゃないか?」

「母はいずれ僕にあのギルドを継がせると言っているので」

「そっか、まぁ好きにしたらいいさ」


 そのままランニングシューズに履き替え、ギルドハウスに向かった。

 扉を開き、中に入ると母のお得意様である軍の交渉役がいた。


「君か、お母さんはまだかな?」

「あー、たぶん奥の部屋で寝ているんじゃないかと」

「悪いけど、起こしてきてもらっていいかな?」


 彼は母とのコネクションを持っていた影響で出世した人間だった。

 素直に母を起こしてもよかったんだけど、連日疲れている感じだし。


 僕は彼をとりあえず応接室に通した。

 慣れた所作でお茶を汲み、彼と彼の衛兵三人に差し出す。


「お母さんはまだかな?」

「今起こしてきます、その前に少々お時間頂いてもよろしいでしょうか」

「私に何か用かな?」


 この人の名前はなんて言ったかな、たしか……そう、ホーネットさんだ。


「ホーネット様に個人的にお聞きしたいことがありまして」

「と言うと?」

「母との交渉とは別に、私事で困っていることはありませんか?」

「んー、急にそう言われてもなぁ」


 ホーネットさんは軍に所属しているとはいえ、師匠よりもご高齢だ。

 だから彼の周囲で僕の顧客を見いだせないか、ちょっと試してみたんだ。


「質問を変えますね、例えば奥さんやお孫さんに贈りたいものはあるけど、高価で入手できてないものとかありませんか。僕の方でご用意いたします」


「……そう言えば、お前の娘の誕生日プレゼント何を贈るか迷っているって言ってなかったか?」


 ホーネットさんは衛兵の一人に聞くと、その人はとまどっていた。


「確かにそうですが、坊やなら娘が何を欲しがっているかわかるのか?」

「彼はお前の娘さんと年も近いしな、一応話を聞くだけでも聞いたらいいんじゃないか?」


 僕と同じ年頃、つまり八歳から十歳ぐらいか。

 その年の女の子が貰って嬉しいもの……なんだろう?


 僕は「ログイン」と唱え、その場でユニークスキル【ネット通販】を開いた。半透明状のスクリーンの上にある検索窓に『少女 誕生日プレゼント』と書き込んで調べると。


 可愛らしいキッズ用の腕時計やトイカメラの商品が表示された。


「このようなアイテムはいかがでしょう?」

「それは?」

「腕時計ですね、子供用の」

「腕時計だって? そんなの贈れたら喜ばれるかもしれないが、俺の安月給だと」

「金貨1枚も出せませんか?」


 そう聞くと、その場にいた軍人さんたちは驚いた。


「金貨1枚でいいのか? 子供用とはいえ、腕時計のような高級品をだぞ?」

「ええ、他にご提案できる品ですと、こちらのお洋服などいかがですか?」


 次々に商品を提示すると、その軍人さんは悩んだようすだった。

 そしたらホーネットさんが懐から1枚の金貨を取り出して僕に手渡す。


「これでこいつの娘の誕生日プレゼントを用意してやってくれ」

「そんな! ホーネット様に払わせることなんてできませんよ」

「お前は普段から隊のムードメーカーとして頑張ってくれている、その報酬だよ」


 いい人だなー、と思いつつ、僕は早速誕生日プレゼントを注文した。

 そこに母がやって来る。


「オーウェン、また悪さしてるんのかしら?」

「いいえ」

「まぁいいでしょう、用事が済んだのなら下がって」


 ではこれで失礼します。


 退室するさいに僕は明日にはお届けしますのでといい。

 初めてのお客様となる彼に礼をつくしてその場を後にした。


 翌日、注文した誕生日プレゼントは倉庫に置いてあったんだけど。

 僕はあることを失念していた。


 誕生日プレゼントを持ってギルドハウスに向かうと、母が告げる。


「ホーネットさんなら昨日お帰りになったわよ?」

「え? マジで?」

「そこは本当ですか、でしょ」


 ど、どうしよう、このままだと横領事件に続き詐欺事件の容疑者になってしまう。


「母さん、ホーネットさんはどっちに行ったの?」

「追おうっていうの? 無駄よ、馬車で片道一日半は掛かる遠い所なんだから」


 子供の足じゃ追いつけない。

 母は意地悪そうな笑みでつづけた。


「さて、どうしましょうかオーウェン? また私の説教にでも耳を貸してくれるのかしら」


 試されている……!

 にしても母の言うように、子供の足だと追いつけないし。


 悶々とした苦悩を抱えたまま家に帰ると、師匠が声を掛けた。


「どうした少年、何かに悩んでいるみたいじゃないか、師匠に相談してみなさい」

「……実は――」


 と、師匠に洗いざらい説明すると笑っていた。


「お前もまだまだ子供だという感じがして、いいね」

「どうすればいいと思います?」

「ホーネットさんなら俺も面識あるぞ、彼は向こうの方にある都市の人だ」

「僕の足だとどれくらい掛かりますか?」

「往復で一週間ぐらいの旅になるんじゃないか?」


 うっげー、そんなの割に合わないよ。

 師匠は頭を抱える僕を両手でわしづかみにして、振り向かせた。


「俺からも注文していいか?」

「いきなりなんですか」

「転移魔法の魔導書、お前のスキルで購入できたりしないか?」


 転移魔法? さすがは剣と魔法のファンタジー世界、そんなものが存在していたなんて。


 ログインしてさっそく検索窓で調べると、それはあった。


 しかしそのお値段、50万ポイント。

 金貨50枚分に相当、終わった。


 崩れ去る僕に師匠は笑い、いつか見せたように両手で丸眼鏡をつくった。


「案ずるなオーウェン」

「お、おお、師匠、まさか――」

「金貨50枚なんて持ってねーよ、だが案ずるなオーウェン」

「なんだよ! 期待させやがって!」


 しかし、次に師匠は僕のユニークスキルの隠された特性についてある推察を口にした。


「お前のユニークスキルに使うポイントってさ、モンスター倒したら増えるんじゃないか?」


 ……それ、マジ?


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