第7話 ユニークスキルは進化する

 ギルドハウスに来たイクスさんに続いて父がやって来た。

 父はさきほどイクスさんから説明された家庭教師の件を再度話し。


 今は母さんから文句つけられている。


 その最中、イクスさんは僕とユーリの手を引いて外に退散していた。


「レイラの説教癖は変わってないな」

「母の特技ですから」

「はっはっはっは! 言うじゃないかオーウェン」


 僕は彼に色々と聞きたいことがあった。


「勇者を引退なさるらしいですけど、後任とかいないのですか?」

「知らないな、必要があれば国が誰かを立てるだろう」

「……イクスさんは僕の家庭教師になるみたいですけど」

「わからないことがあったら何でも聞いてくれ」

「イクスさんが村にいることでリスクとかないんですか?」


 その質問は自分でもなかなか踏み込んだと思った。

 しかし彼は何も気にした素振りもなくて。


「リスク? ないと思うけどな?」


 ならいいか。

 他にも聞きたいことはあった。


 例えばイクスさんの下で学ぶことはどれほどの実績になるのか。

 教育方針は? 教材とか必要なら用意する。


「二人とも、今日から俺のことは師匠と呼ぶようにな」


 ユーリは素直にうなずき、僕も同調してうなずいた。


「師匠、せっかく気をつかって頂いたところ悪いのですが、僕はギルドハウスに戻ります」

「本気かオーウェン」


 師匠はあの死中に赴いて活路を見出すつもりかと僕に感嘆していた。


「あれが父と母である以上、止められるのは僕しかいないので」

「いい、実にいいぞオーウェン、その心意気、俺は応援する」

「じゃあ、ユーリのことは頼みました」

「ああ、逝ってこい!」


 ギルドハウスに戻ると、ニーナが母さんを羽交い絞めにしていて。

 父さんが母さんの前で尻餅ついて必死に弁明していた。


「あのごくつぶしを引き取る余裕が家にあると思ってるの!? 本気で!?」

「し、失礼じゃないか、彼はあれでも勇者だった男だぞ、そんな男が無能なはずが」


 母さんの言いたいこともわかるし。

 父さんの言いたいこともわかる。


 僕の正直な気持ちとしては、先々が不安でしょうがなかった。


 ◇ ◇ ◇


 昼過ぎ、母さんは僕を解放した。


「オーウェン、今日は上がっていいわ。本日もお疲れ様でした」

「お疲れ様でした、お先に失礼します」


 そう言って立ち去ると、ニーナが猫耳をぴょんと立てて見送ってくれた。


「明日もよろしくね」


 他のギルドメンバーも先に上がる僕を口々に見送る。


「今日も助かったよ」

「また明日なー」


 母さんがリーダーを張っているギルドだけあって、みんな社交的だ。


 今日ギルドで注文を受けた品は僕の家の倉庫に届き。

 ギルメンが倉庫から持って行ってくれる。


 以前はジミーもその手伝いをしていた。

 恐らく、ジミーはその手伝いをしていた時から騎士学校に入る予定だったのだろう。

 母さんや父さんは労働の対価として彼の進学を援助したと思うんだ。


 午後三時頃には家につく。

 兄姉弟子のアルベルトさんとハクレンさんが掛かり稽古をしていた。


 アルベルトさんが手にした木剣が大気を裂き、ハクレンさんに襲い来ると。

 彼女は手甲でいなしてアルベルトさんに反撃していた。


「アルベルト、手の内が簡単すぎるぞ。ハクレンも今の一撃で決めきれ」


 師匠はかたわらの切り株(元々木が生えていた)に腰掛け、二人の稽古をユーリと一緒に見守っていた。ユーリは彼のまたぐらに座り、ケータイゲーム機でぴこぴこと遊んでいる。


 妙なタイミングで帰って来てしまった。


 師匠イクスは僕を見つけるなり、手招いて呼んでいた。


「オーウェン、こっちだ。二人の邪魔にならないように来るんだ」


 僕は兄姉弟子の二人から距離を取ることを意識しつつ師匠のそばに向かった。


「はっはっは、オーウェンは戦闘訓練した経験はなさそうだな」

「ないに等しいですね」

「お前の存在価値は一目瞭然だしな、それでいいだろ」

「……母から師匠に伝言を頼まれました」

「なんて?」

「師匠名乗るのなら師匠らしいところを見せてみろ、と」


 と言うと、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「任せろよ、俺は経験上、人を見る目がある」

「はい」

「俺の目から見るに、オーウェンはがり勉派だ」

「いや、僕は勉強嫌いな方ですよ」


 師匠は僕の反論に輪をかけて笑った。


「お前のユニークスキルは今でも便利だが、伸びしろがある」

「本当ですか?」


 師匠曰く、ユニークスキルはたいてい何段階か進化するものらしい。

 父から話を聞いた限りだとその兆候はまだないと師匠はいう。


 じゃあ聞きたいことがある。


「師匠もユニークスキルをお持ちなのですか?」

「ああ、俺のユニークスキルは雷神って言ってな、機会があったら見せよう」

「ユニークスキルを進化させるにはどうすればいいんですか?」

「人それぞれだ、俺の場合は死地や窮地で進化した。お前の場合だと」


 師匠は両手で丸眼鏡をつくり、僕を見て断言するのだった。


「お前の場合だと、スキルの使用経験の有無で進化するタイプと見た」

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