第5話 カレーライス
えっと、とりあえず上がっていきなはれ。
ぐらいの気持ちで勇者御一行様を30年ローンの家に上げた。
「靴は玄関で脱いでくださいね」
「わかった」
「この家は三階建てになります、三階にある一室は僕の部屋なので立ち入り禁止です」
「俺や弟子二人の部屋はあるのかな?」
そうどすなぁ……見受けた所、男二人に女一人。
とするとやはり男女で敷居を分けたほうがいいだろう。
「勇者さまとお兄さんはこの部屋をお使いください」
一階の広い一室に男二人をあてがい。
残されたお姉さんは三階の空き部屋にあてがった。
それぞれ指定の部屋で荷を解き、二階の居間でくつろいでもらった。
お茶を差し出すと、勇者イクスさんは一口で飲み干した。
「美味しいな、お茶一つにしたってこんなに違いが出るんだ」
パックのお茶だけどな。
「お兄さんとお姉さんのお名前を聞いてもいいですか?」
そう言うと白麻で出来た簡素な服に着替えたお兄さんが口を開いた。
「俺はアルベルト、彼女はハクレン」
「よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀までどうもです。
「僕はオーウェンと言います、改めてよろしくお願いします」
「三人とも礼儀正しくていいね」
イクスさんはそう言い、ほうれい線を浮かべて優しい笑みをとっていた。
「今日の晩御飯はカレーでいいですか?」
「カレーってなんだ?」
「香辛料が利いたちょっと辛め料理ですね、ご飯とパンと選べますがどっちがいいですか?」
個人的にはナンを推したいが、何となく勇者様はライスの方が合うような気がした。
余っていたポイントでレトルトカレーを購入して、炊飯器でお米を焚き。
父の領地で獲れた根菜や煮れば旨味が出て来る野菜を調理する。
ハクレンさんがそばにやって来て、女性らしいふくいくを香らせた。
「手伝いましょうか?」
「とりあえず今日の所は休んでいてください、長旅で疲れているかもですし」
その時、家のチャイムを誰かが鳴らした。
母さん? いや父さんかな?
「ごめんなさい、誰か出てくれませんか」
「来客の合図って所なのかな? 俺が出よう」
誰かは知らないが、まさか勇者が家から顔を出すとは思いもすまい。
家にやって来た謎の人物の正体は、ユーリだった。
ユーリはイクスさんと手をつなぎ、二階に上がって来た。
「オーウェン、お風呂借りてもいい?」
「どうぞー」
ユーリはこの家によく来訪する。
お風呂借りに来たり、ゲーム機の充電しに来たり、ほぼ毎日来る。
本来なら彼女の相手をしたい所だけど、今日は勇者御一行のもてなしで忙しい。
などと、勇者たる肩書を持った男に少し興味を持っていた僕が馬鹿だった。
「いやー、この家は小さいけどお風呂も最高だな」
と、勇者は湯上りで腰にバスタオルを巻いた状態で出て来る。
えっと、お風呂はユーリが入っていたはずじゃ……?
「お風呂ありがとうオーウェン」
「……ユーリ、まさかイクスさんと一緒に入った、の?」
聞くとユーリは可憐な表情でこくりとうなずいた。
僕の中の何かが音を立てて崩れてしまった、僕が馬鹿だった。
◇ ◇ ◇
日が暮れ始め、勇者イクスは火灯りは? と聞く。
僕は慣れた様子で蛍光灯のスイッチを入れると、三人はぽかんとしていた。
「この家にあるものすべてがオーバーテクノロジーだな」
「女神様には感謝しております、僕みたいなのにこんな恵まれたスキルを与えてくれて」
さてと、晩御飯にしましょう。
僕が腕を振るって作ったカレーライスでも食べていきなはれ。
イクスさんはカレーの香ばしい匂いをすんすんとかいで。
「旨そうな匂い、すごいなオーウェン」
「ありがとう御座います、ユーリも食べていく?」
「お母さんには今日は泊っていくって言ってある」
彼女との薔薇色めいた素敵な日々とも今日でおさらばか。
いや、勇者イクスはここに永住するとは言ってないし、まだワンチャンあるか。
カレーライスとポトフっぽいスープ料理を食卓に並べる。
勇者御一行は見たことのない料理に目を輝かせていた。
「食後のデザートとして瓶プリンもありますよ、それじゃあ頂きましょう」
ユーリはスプーンをにぎりカレーライスを口に運んでパクパクと食べる。
その様子を見ていた他三人は、誰から行く? みたいな視線を交わせていた。
「毒なんか入ってませんよ?」
念のため伝えるとイクスさんは笑った。
「はっはっは、まぁここは俺達の毒味役、アルベルトに任せよう」
指名を受けたアルベルトさんはスプーンをにぎり、緊張したようすでカレーをすくう。
ユーリが珍しく口をひらいて。
「美味しいですよ?」
「……いただきます、っ――……っ!?」
イクスさんは彼に感想を求めた。
「どうだアルベルト? いけるか?」
聞かれたアルベルトさんは親指をぐ!
と差し出して、勢いよくカレーライスにありついた。
そしたら彼を始めとして、イクスさんやハクレンさんはおかわりを要求するほどカレーを気に入ってくれたみたいだった。
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