第4話 勇者御一行
「オーウェンに教えておくわね」
母は鬼と化していた。
何せ彼女は十歳の息子に出し抜かれ、横領されていたのだから。
母以外の人間は同情から許してあげるよう助言していた。
「今回の件はみんなが言ってくれているからこれ以上は怒らないけど」
僕は土下座して、地べたに額をつけて母の前で身体を震わせていた。
もう二度としません、はい。
「私たちみたいな商人は、信用が先ず第一だから、それだけは覚えておきなさい」
「はい、僕が愚かでした、以後このようなことがないよう気を付けます」
母さんは深いため息をついて、ギルドハウスにそなえたソファに腰を下ろした。
「何が、僕からの餞別、よ。十歳のガキが気取ってるんじゃないわよ」
「はい、大変申し訳ありませんでした」
「大特価だったからとはいえ、聖剣装備を送られたジミーもドン引きだったわよ」
「はい、配慮に欠けておりました」
「二度とするんじゃないわよ」
母の説教は僕のプライドを粉々に砕くほど恐ろしかった。
父がやって来て、しょげている僕の肩に手を置く。
「あれは悪事に対して厳しい性格をしていることを知れたな」
「はい」
「オーウェン、いい加減落ち込むのはやめようじゃないか」
ジミーの件からもう三日は経つぞ、と父は言うが。
母の説教は三日三晩続いて、今ようやく解放されたばかりだ。
当初はギルメンも笑っていたけど。
その後二日も説教が続くとはみんな思ってなかった。
みんな「えぇ、まだやってるの?」という表情を憐れみに変えていた。
父は借りてきた猫のようにおとなしくなった僕を家に連れ帰り。
いつぞやの時みたく一緒にお風呂に入った。
「私は把握してないのだがな、お前のユニークスキルだと他にはどんなものが購入できるのだ?」
「変わり種で言えばジミーに贈った聖剣装備だったり、魔剣や魔法具も購入できるみたいです」
返答を聞いた父はにこりと笑う。
僕の両親に限ってなのかもしれないが、二人の笑みには裏の意味が込められていた。
母で言えば秘められた怒り、父で言えば悪だくみしているみたいな感じだ。
母は悪事に厳しい人という言質を父から聞かされていたし、これは一波乱あるぞ。
数日後、僕の家に剣と魔法の世界ならではの御一行がやって来た。
「やあご夫妻、久しぶり」
「なんで貴方がここに?」
その一行の先頭にいた鎧姿の男性を見た母は怪訝なおももちだった。
一行の中でも先頭にいた彼は僕を見て笑った。
「二人の間に子供が出来ると、こんな感じになるんだな」
知らないけど彼らは両親の古い知人らしい。
とりあえずえしゃくだけでもしておこ、ぺこり。
「初めまして、オーウェンと申します」
彼は大らかな笑みをたずさえ、僕に視線の高さを合わせて頭を撫でた。
「初めまして聖商人レイラと男爵様のご子息様、俺の名前はイクシオン、勇者だよ」
「……へぇ」
「?」
おっと、生返事にもほどがあるな、ここは子供らしく喜ばないと。
僕は爽やかな金髪の長髪姿をした彼に抱きついた。
「勇者様だぁー、すっげぇー」
「あはは、これからよろしくな」
母は何も知らなかった様子だが、父は彼らの来訪を知っていたみたいだ。
「イクスはこれ以降は領民の一員としてここに暮らし始めるそうだぞ」
「え? それ本当なのイクス?」
イクシオンさんの愛称はイクスと言うらしい。
母は彼に向かって父の言葉の真偽を聞いていた。
「なんか面白い子達がいるって聞いたからさ、しばらくは滞在確定だな」
イクスさんが連れていた二人の弟子、剣聖の孫と大聖者の孫も挨拶していた。
父は挨拶におうじ、僕にとっては悔しい打診をした。
「オーウェン、イクスの宿泊先はお前の家を想定しているけど、よかったよな?」
えぇ……。
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