第3話 横領、聖剣装備セット
母は僕のユニークスキルを褒めちぎっていた。
僕の異世界ネット通販で仕入れた品が母さんの店で飛ぶように売れている。
母は父の領地であることをいいことに、それまで閑散としていた土地に専用の商店を作って、その商店には馬車にのって遠くから買い付けにくるお客さんも出て来る始末だった。
九歳の誕生日を、僕はユーリと合同で祝われた。
実家の庭にテーブルを置いて、野外で誕生日パーティーしている。
母お手製のサンドイッチと鶏肉料理を口にすると、母さんはこう言った。
「オーウェン、誕生日おめでとう、これは私からのプレゼント」
僕はその箱の大きさからプレゼントの中身をなんとなく察していた。
これは僕が以前から母にお願いしていた携帯ゲーム機『NX』だと思う。
母は僕のみならず、ユーリの分と二つ用意していたらしい。
僕のユニークスキルなのに、一体いつ目を盗んで買ったのだろう。
ユーリは箱の中身を見て不思議そうな眼差しを送っていた。
「オーウェン、これ何?」
「ゲーム機だよ、まぁ遊び方は僕の家で説明するとして、ありがとう母さん」
母は凛々しい笑顔で「どういたしまして」と応えた。
「遊ぶのはいいけど、勉強もちゃんとしてね三人とも」
して、母さんは何かを思い出したかのようにジミーを呼んだ。
「オーウェン、ジミーが伝えたいことがあるんだって」
「え? あらたまって何?」
ジミーは今年でもう11歳で、なんでも彼は。
「俺、来年になったらここからいなくなる、都にある全寮制の学校に行くんだ」
「……マジ?」
「本当だよ、オーウェン、今までいじめてて悪かった」
彼の話を聞くと、ジミーは王国の騎士を志しているらしい。
彼は僕の両親から援助を受けて、ここから遠くの学校に入って。
そこで修行して、一人前の騎士になってやるって意気込んでいた。
正直、寂しいよ。
最近は領地も発展してきたとはいえ、ユーリとジミーは古くからの知り合いだったから。
ジミーは英気に満ちた眼差しで僕を見ていた。
「お前もその内俺と同じ学校に来ないか?」
と言うと、母が僕に後ろから抱きつく。
「それはダメだからね! オーウェンがいなかったら私生きていけない」
その時から僕はジミーと別れる手向けを何かしてやれないかと思い始めた。
◇ ◇ ◇
翌日も母に拉致られるようにユーリと一緒にギルドハウスに連れて行かれる。
ユーリは昨日贈られた携帯ゲーム機に夢中になって遊んでいた。
ギルメンのキースという若手の青年が遊んでいるユーリに声を掛けた。
「何それ? オーウェン産の新しい商品?」
「携帯ゲームっていうらしいよ」
「楽しそうで何よりだな、オーウェン、発注書置いておくぞ」
僕のユニークスキルは季節によってメニューが変わる。
そのことに逸早く気づいたのは母だった。
メニューが一新されるのは一か月に一度。
だから一か月に一回は母は頼りにしている獣人のニーナと一緒に品定めする。
母とニーナの手によって作られた取り扱い商品一覧をギルメンは目にして。
僕に発注書とポイント分の金銀銅貨を渡すといったルーティーンだ。
「……キースさん」
「ん?」
「実は商品の値段に一部誤りがあって、今から訂正するので確認してもらえますか」
「おっと、それは大変だな」
僕は油性ペンを取り出し、キュキュっと商品一覧にあった値段表を修正する。
キースは訂正された値段を見て素直に追加のお金を差し出した。
これは僕による完全犯罪、こうして値段を吊り上げることで私腹をこやすのだ。
母さんは目が回るほど忙しそうにしているから、バレへんて(強欲な笑み)。
そうして着実に着実に私腹をつのり、僕は大特価セールの頃合いを見計らってそれを購入した。
後日、その日はジミーがいよいよ都に向かうとのことで。
僕とユーリと両親は都への馬車がやって来るまでジミーとの別れの時を過ごした。
ユーリは目から大粒の涙を流して、彼との別れを悲しんでいた。
「元気、でね」
「おう、二人も元気でな。オーウェン、ユーリを困らせるなよ?」
「大丈夫だよ、それよりもジミー。これ、僕からの餞別」
僕はジミーへの餞別として、大特価セールで購入した品を渡した。
ジミーは段ボール箱を受け取り、ずしりとした重さに驚く。
「おっめぇな、中身は何だよ?」
「ジミーは聖騎士になるんだろ? ならそれ相応の装備は必要だと思ったんだ」
「……まさかお前」
「中身は聖剣装備、大特価セール中に購入したから、お買い得だった」
その後、横領がバレた僕は怖く凛々しい母から後悔するほど説教された。
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