第2話 奴隷化現象

 ユーリに五才の誕生日プレゼントを贈れたし。

 これから毎年、彼女のために気持ちを込めたプレゼントを用意したい。


 僕にはそれを可能とするユニークスキル【異世界ネット通販】がある。


 ユーリの家から30年ローンの家に戻った。

 今度は父さんと母さんに感謝の気持ちを贈らないと。


 と思ったけど、五才の僕にお酒一升瓶と各種調味料は持てないほど重かった。

 家に隣接されたガレージでどうしようか悩んでいると、ジミーがやって来た。


「オーウェンの家にこんな所あったっけ?」

「丁度いいところに、手伝って欲しいことがあるんだ」

「おういいぜ、これで貸し借りはなしな」


 二歳年上のジミーに手伝ってもらい、僕は両親のもとにプレゼントを持っていた。

 父さんは書斎にいて、僕たちにこう言う。


「子供が仕事場に入っちゃ駄目だ、何か用か二人とも」

「父さん、もしよかったらこれを受け取ってください」

「これは? エーテルか?」

「日本酒です、日本という異国が醸造している米から作られたお酒です」

「ほう、これも例のユニークスキルか?」


 そうです、と素直に打ち明けると、父は酒瓶を机におく。


「ありがとうオーウェン、今お前のスキルについて国へ手紙を書いていた所だ」

「お仕事中失礼しました、母さんはどこに?」

「母さんだったらギルドハウスにいると思う」


 そうとなれば早く母さんに調味料をプレゼントしよう。

 母は父よりも国からの評価が高い商人で。

 独自の商人ギルドとそのメンバーとのギルドハウスを持っていた。


 僕はジミーに荷物を持たせ、ユーリも連れて実家から離れたギルドハウスに向かった。

 観音開きの扉を両手で開き、中をうかがう。


 母さんのギルドハウスは赤茶けた壁を基調とした木造りの家屋で。

 ギルメンの一人の猫耳獣人、ニーナが僕達を見つけて眉を開いた。


「おお、オーウェンじゃないの、なんか久しぶりだね。今日はどうしたの?」

「母さんに日頃の感謝を込めて渡したいものがあって」

「おおー、お前は出来た息子だよ。今呼んでくるから待っててね」


 僕はジニーとユーリの二人を連れて、もはや慣れた感じでギルドハウスの応接室に調味料が入った段ボール箱を下した。ジニーは手でひたいの汗をぬぐうと、中身について聞いて来た。


「割と重かったな、中身はなんなんだ?」

「お料理の時に使う調味料だよ、塩砂糖コショウみりんにマヨネーズ」

「……マジ?」


 中身を聞いたジミーは怪訝な面持ちだった。

 そこに母さんとニーナがやって来て、ちょっとした騒ぎになった。


「馬鹿息子!! これ一体どこから盗んで来たの!?」


 どうやら異世界では塩砂糖コショウといった品は高級品に入るらしく。

 母さんも最初は優しい感じだったけど、中身を見てぎょっとした後。


 普段からやんちゃがすぎる僕を馬鹿息子とののしって首元を掴み上げた。


「父さんから融資してもらったお金で買ったんです」

「馬鹿言わないで、あの人のお小遣いは私が管理してるのよ?」


 父の小遣いで賄えるような金額じゃないらしい。


「どこから盗んできたの、正直に言いなさい!」


 ふぅ、実質家を切り盛りしている精力的な母の相手をするのは疲れる。

 母は昨夜は家を空けていたため、ことの成り行きを知らなかった。


 ので、僕は母とギルメンのニーナを連れて30年ローンの家に帰った。


「何この家?」

「玄関では靴を脱いでくださいね」


 母たちを連れて二階に上がり、居間にあったソファに座ってもらった。

 ニーナは黒革のソファを見て「この椅子、王室にもないんじゃない?」とびびっている。


「昨日、女神様から天啓があって、僕はこの家とユニークスキルを貰いました」


 母は無表情だった面持ちから一転して奇怪な笑い声をあげる。


「はっはっは、それはよかったねオーウェン」

「ええ、日ごろから女神様を信仰していてよかったです」

「それで、今度はどんな悪さをしたの?」


 ああ、母さんが薄氷の笑みを浮かべている。

 商人として腹立たしい相手と交渉する時にのみ見せる営業スマイルだった。


 僕はそこで母さんの隣に座り、例の画面を見せた。


「これが僕のユニークスキルです、この画面に載っている品であればポイントを支払うことでこの家の隣のガレージに届くみたいです。昨日父から融資を受けて調べた所、銅貨で10ポイント、銀貨で1000ポイント、金貨であれば1万ポイントに換算されるみたいです」


 映し出された商品に両隣にいた母とニーナが画面をのぞき込み。


「「……」」


 絶句している。

 母はさきほど贈られた調味料の値段を知り。


「塩と胡椒が銀貨1枚でそれぞれ500グラムも買えるの?」

「はい、それに僕たちの領土では作ってないお米だったり、小麦粉なんかも」


 ニーナは猫耳をぴょこんと突き立てて「うわー」と驚いている。


「これ見てレイラ、化粧品や口紅も売ってるみたい。しかも品数がいっぱいある」

「しかも安価じゃない、これなら一般世帯でも手が届く値段といったところかしら」


 大人の女性二人にはさまれ、僕は緊張していた。


 髪の毛を後頭部でお団子に結った凛々しい母は僕の頭を無意識になでていた。


「ニーナ、オーウェンの言うことが本当かどうか確かめてみましょうか?」

「どうするの?」


 と言い、母さんは映し出された口紅をタップして二つ購入した。


「とりあえず私とニーナの口紅を仕入れてみましょう、もしもオーウェンの言う通りだったら」


 だったら?


「可哀相なオーウェン、貴方の人生は私が貰っちゃうからね。そう、私は貴方の母親なのだから」


 母さんには内緒にすべきだったなと深く後悔した。


 翌日、購入した口紅がそれぞれ届き、二人は確かめるように自分に使った。


 その発色の良さ、使い心地と、異世界で流通している物よりはるかに安い値段。


 二人の顔は活気でみなぎり、僕は母さんの奴隷になることが決定された。


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