僕だけが使える異世界ネット通販~【聖剣】が金貨100枚? 高いからセール価格を狙う~

サカイヌツク

第一部:少年編

第1話 ユニークスキル【ネット通販】

 かいつまんで僕ことオーウェンの異世界人生を語ろう。


 地球は日本の前世を持つ僕は異世界の平凡な貴族家に生まれ。

 五才の時、初めて家のもの以外の友人とバトルした。


「く、殺せ!」

「オーウェンよえー! 貴族だからって調子にのるなバーカ」


 貴族とは言え、家は言わば中間管理職。

 例え農村の子供にボコボコにされようとも、なぁなぁですまされる。


 僕とて前世の記憶を持っているから、所詮子供の喧嘩と割り切れる。


 しかし五才にまでなると異世界の生活が退屈になっていた。


 ここは剣と魔法のファンタジーの世界観をしているから。

 文明の発展はほど遠く、ネット文化が発達していた現代と比べるとつまらん。


 その日も僕は退屈しのぎに村一番の美少女であるユーリにちょっかいをかけた。

 ユーリは藍色の瞳と綺麗なブロンドが見目麗しい同じ年頃の女子だ。


 ユーリを慕う輩は多く、先日僕をボコった悪友はまた彼女を守ろうとした。


「オーウェン! しょうこりもなくユーリに手を出すな!」

「く、殺せ!」


 そんな僕は家から問題児認定されて、家族会議にかけられた。

 父は「どうすれば悪さしなくなる?」と貴族髭に手をやって問いた。


 その時、僕に天啓が舞い込んたんだ。


「……父さん、僕ももう六才になります。そろそろ自立する年です」

「自立したい? 六才でか?」

「はい、自立と言ってもこの家の隣に自分の家を構えるだけです」

「つまり自分の家が欲しいのだな?」

「はい、と言っても父さんの手を煩わせることはないと女神様は言っています」


 家族会議の最中、脳裏に女神様の声がした。

 女神様は僕にユニークスキル【ネット通販】を与えると言っていた。


 その一歩として、今いる家の隣に倉庫付きの現代家屋を用意したと言っていた。


 幻聴にしてはやけに生々しい声だったので、父と一緒に空き地だった隣に向かう。


 そこには女神様が言ったとおり、見覚えのある現代家屋があった。


 前世の時に30年ローンで購入したマイハウスじゃないか。


 三階建ての家屋の隣には納車も可能な倉庫があって。

 試しに慣れた様子で家屋の扉を開いて中にあがった。


「あ、父さん、玄関では靴を脱いでくださいね」

「あ、ああ、気が動転していてな、悪い」


 見受けた所、電気水道ガスはどこからか供給されているみたいだ。

 けど、肝心のネット通販に必要なデバイス機器が見当たらない。


 パソコンやケータイと言ったネットに繋がった機器がなかった。

 まぁいいや。


「父さん、たまにはお風呂ご一緒しませんか?」

「風呂? と言っても今日は風呂の準備していないぞ」


 この世界だと風呂は贅沢品で、貴族の僕の家でも五日に一度ぐらいだ。

 しかし、女神様から貰ったマイハウスであれば三十分で湯を沸かせられる。


 三十分後――父からすれば異質な電子音のメロディが室内にひびく。


「なんだ!? モンスターか!?」

「お湯が沸いた合図ですよ、お風呂にしましょう」


 僕は全裸になって風呂場に向かい、泥だらけだった衣服を洗濯籠へぽいっと入れる。父は僕の後をおそるおそるついて来て、シャワーからお湯を出すとのけぞっていた。


「魔法か!?」

「シャワーです、この蛇口から温度調整された水が出ているだけです」


 して、シャワーで軽く汚れを落とした後、僕は父と一緒に湯船につかった。

 父は小さな僕をまたぐらに置いて、放心した状態で言うんだ。


「ユニークスキルを顕現する者はいるとはいえ、いまだかつてお前みたいなスキルに目覚めたものはいないだろう」


 だろうな。

 僕は湯船につかりながら女神様の天啓を思い返していた。


 この家にはネットにつながるデバイスはないが。

 たしか代わりに呪文があると言っていたはずだ。


「ログイン――だっけ?」


 と言うと、目の前に半透明の見慣れたウィンドウが出てきた。

 突然現れたブルースクリーンに、父はびくっと湯船を揺らす。


「今度こそ魔法か!?」

「かもしれませんが、少し静かにしててください」


 ウィンドウには各通販サイトのページが埋め込まれていた。

 指先で操作すれば複窓も可能だし、前世の知識もあって直感的に動かせる。


 操作を続けていると、今の僕にとっては堪らない商品がセールしている。


【超味覚ジュース オレンジ味『1ケース』 1000ポイント】


 前世の時僕が愛飲していた炭酸飲料水が1000ポイントで売られている。


 このポイントが何を示しているのかわからない。


 風呂から上がった後、僕は父の有り金を奪った。


「あ、それ父さんの今月のおこづかい」

「僕に投資してください、倍にして返します」


 父の財布から銀貨1枚を取り、スクリーンに投じると。

 メニュー欄にあった『所持ポイント』に1000ポイント追加されていた。


 銀貨1枚が1000ポイント相当なのだな、銅貨は10ポイントと。

 金貨が1万ポイントで、これ以上の貨幣は父が所持していないから検証不可能。


 合計で2万5100ポイント追加して、他の商品もチェックした。


【聖剣装備セット 100万ポイント】


 聖剣装備? 金貨100枚とか、いらねぇな。

 いずれ勇者と仲良くなった際は交渉させてもらい、セール価格の時に買おう。


 それよりも、今の僕に必要なのはユーリに贈る品だ。

 何がいいか考えたけど、抱きぐるみと呼ばれる大きなぬいぐるみにしよう。


 価格も5000ポイントと、お気持ち表明するにはまぁまぁな価格だし。

 他にも父用の日本酒と、母さん用に調味料各種と、あとはお菓子でいいか。


 その後、父には実家に帰ってもらい、僕は新築の家に寝泊まりした。

 寝て覚めて、荷物が届いていないか家じゅう探すと。


 家の隣にある倉庫に見知らぬ段ボール箱があった。

 開梱すると、中には昨夜ネットで購入した品々が入っている。


 僕はさっそく大きなぬいぐるみを手に、ユーリの家に向かった。


「ユーリ、昨日今日と誕生日だったよね、これ僕からのプレゼント」


 そう言い、ビスクドールのように可憐で寡黙なユーリに手渡すと。

 彼女は生まれて初めて僕に笑顔を見せた。


「あり、がとうオーウェン」


 そこに悪友のジミーがやって来て。


「お前マジでこりないなオーウェン! って、なんだよ?」

「君にはこれをプレゼントするよ、いつも仲良くしてくれてありがとう」


 ジミーには駄菓子をプレゼントした。

 駄菓子と言えど、限界集落のようなここでは貴重も貴重な品で。


 ジミーは僕に向けていた怒りと嬉しさが反発しあって汗をかいていた。


「あ、ありがとう。これ食っていいのか?」

「安い品だから、三人で食べちゃおう」


 試しに僕が駄菓子を頬張ってみせる、異世界ではほぼない甘味料を気安く食べる。

 続いてユーリが駄菓子を口にしていた。


「美味しいよ、ジミー」

「これ、チョコレートだろ? チョコレートは高級品だって」


 ジミーは高級品だというお菓子を目の前にためらっていたので、そのお菓子の購入金額を教えてあげた。


「いや、そのチョコレートは1個銅貨1枚ぐらいで買えるよ」

「マジかよ」

「本当だよ、だから遠慮せずに食べていいよ」


 ジミーは手を震わせ、おそるおそるチョコの駄菓子を口に入れる。


「……美味い」


 そこから僕とユーリ、ジミーとの数奇な縁は始まった。


 二人は僕の異世界人生を語るには欠かせない存在だったのだ。

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