名前繋がり
「俺も大した話じゃないんだが妙な体験があるんだよ」
そう言うオムロさんに話を伺った。
アレは俺がまだ高校の頃だから随分と昔になるなあ……いや、懐古趣味じゃないんだがな、その頃の話だよ。
彼は今四十を超えているのでそれなりに昔の話ということになる。当時はまだまだ生徒の自主性に任せる……という名の放任主義だったそうだ。
高校にもなると門限にルーズなものも増えてくる。そういった連中が夏休みを迎えると当然の如く夜更かしなどしてしまう。当時は携帯電話が普及していなかったので、大問題になるようなことは無かったが、翌日にお説教をされるものも珍しくなかった。
ま、そんな時代だから夏になると花火大会になったんだわ、あ? ああ、もちろん打ち上げ花火がどんどん上がるようなヤツじゃないよ、有志が集まってなけなしの金で買ってきた花火をどんどん火をつけるんだよ。無秩序って言うのかね? 要は雑に集めた花火でドンパチやろうぜって言うことだ。
その日は結構な人数が集まってな、来年は受験ってことで遊べる時に遊ぶって考えの奴らが多かったんだよ。そりゃもう吹き出し花火から小さな打ち上げ花火みたいな派手なヤツや、ネズミ花火や煙球みたいなチマチマしたものまでぶちまけてたよ。手持ちの花火にタバコを吸うやつがライターで火をつけて、その日を他のヤツがもらったりしてたよ。
え? 高校生でタバコ? ああ……そういやお前さんはお行儀が良かったな、まあ昔の話だからその辺も緩かったんだよ。俺は吸っちゃいないが十代から吸い始めるヤツなんて当たり前にいたぜ。
そうして大量の火薬をバチバチやって楽しんだ後に残ったのが線香花火だよ。地味だったから最後まで手がつけられてなかったんだな、結構な数があったよ。
最後にソイツを燃やして夏を終わろうぜって話になったんだ。夏が終わるっていうのは要するに青春が終わるって意味だよ、当時でも九月までは結構暑かったからな。
ライターを一人ずつ借りていって火をつけてパチパチ燃える花火に思いを馳せたんだが、問題は俺の番だよ、最後に火をつけたんだが、燻って煙は出るんだが、綺麗な火花なんて出やしない。仲間からも『シケモクかよ』なんて言われたんだよ。え? なんでそんなことを覚えてるかって? まあそれだけなら大して記憶にも残らなかったんだがな……
結局火薬の部分が煙を出して真っ黒のかたまりになってポトリと落ちて終わりだよ。それで解散、夏の終わりに景気の悪いこともあるもんだって思ったよ。
それで夜に家に帰ると家族が布団を出しているところだったんだよ。俺ももう寝るかって思ったんだが、ばあさんに『お前もお仏壇に線香くらいあげんさい』って言われてさ、テンションは低かったんだが仏壇に線香を供えようと線香を手に取ってライターで火をつけたんだ。ロウソクなんて使わんよ、ライターが用意してあったんだからそれを当然使ったさ。で、線香に火を当てると急に火花を出して燃えだしたんだよ。
そう、線香花火みたいにな。パチパチ出しながら燃える線香を寝かせて灰の上に置いて燃え尽きるのを待っていたんだ、線香なら燃え尽きるまでかなりかかるが、あの時は線香花火よろしく凄い勢いで短くなっていってな、あっという間に燃え尽きたんだよ。そこでふと思いだしたんだが、仲間と線香花火をやっていた時に俺の花火からはなんか知らねえけど仏壇の臭いがしたんだよ。今思うとアレは線香の臭いだったんだろうな。
なんとなく先祖にお説教されているような気がしてそれからは真面目に勉強したよ。おかげで何とか大学に滑り込んでこうして就職出来たってわけだ。ま、つまんない話だろ?
私は丁重にお礼を言って話を書き留めておいた。火薬の入れ違いなどではないだろう、そもそも製造ラインがまったく違う。その不思議な体験が、オムロさんのご先祖によるものだったかは分からないが、それ以来彼が真面目に生きているのは確かだそうだ。
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