口うるさい母親
春日さんはその日、住んでいるアパートでゴロゴロしていた。その日は休日だったし、いまいち外に出るには暑すぎた。年々暑くなる夏に愚痴りつつ、エアコンの効いた部屋でマンガを読んでいた。
「あれは何が原因だったかは分かりませんが……不思議なものでしたね」
彼はそう語る。
スマホの着信音が鳴った。手に取ってディスプレイを見ると妹の名前が表示されていた。こんな日に何の用だと思いました。とはいえ実家を出た以上あまり頼られることもないだろう。そう思って電話に出たんですが……
その電話からは妹のすすり泣く声が聞こえてきました。間違いなく妹の声だったんです。アイツは取り乱すようなタイプではなかったので思わず『どうした!』と慌てて聞いてしまいました。
電話の内容は『母さんが病気で危ないからすぐ病院に来て!』と繰り返し言われた。やや待ちの外の方にある病院に運ばれたらしい。あの頑健な母親が? とは思ったものの、無視する内容でもないのでスマホと財布と鍵を持って大急ぎでアパートを出て自転車に乗りました。
そこからはいまいち覚えていないのですが、暑い中を信号待ちにイライラしながら病院に急いでいたような気がします。
しばし自転車を漕ぐと、ようやく白い建物が見えてきたので、すぐに面会の手続きをしようと受付に行ったんです。受付で家族であることと、母親の名前を言って、入っている病室を聞いた。しかしジムの人は色々と調べている様子で待たされたわけで、その結果言われたのが、『そんな方はお見えになっていませんよ』というものだった。
いや、あの電話は間違いなく妹の声だったので、すぐに建物を出て妹に電話をかけた。
「なあ、お袋がいるのは市民病院じゃないのか!? 俺が病院を間違えたのか?」
そうまくしたてたんですけど、妹はにべもなく『何言ってんの? 母さんなら今日はずっと家にいるよ』とハッキリ言われてしまった。おかしいなと思いつつ電話を切って、履歴を見ると、妹の着信が残っていなかった。あれはなんだったのだろうと考えて、そういえば小学生の頃からゲームをしていると『外で遊びなさい』と口やかましく言う母親だったことを思い出した。そしてここ数日引きこもり同然の生活をしていたことを思いだした。
本人に電話をかけようかと少し考えて、どうせまたお説教が返ってくるのは目に見えていたので諦め、なんとなくやや遠いスーパーまで自転車を押して、青空の下をのんびり行った。そこで少し良い食材を買って帰り、久しぶりの自炊でカレーを作った。
苦労した分美味しいような気がしたのだが、気のせいかもしれない。ただ、そういえば年を重ねると母親に怒られることもなくなっていたなと思いだした。
そのうち実家に顔を出すかと思い、カレーをたっぷり食べてそんな考えが浮かんだ。
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