184.最後の一票

「がおー」

「やはり、お主がエルフじゃったか……」

「ん」


上位チャット:さあ、やってまいりました投票フェーズ

上位チャット:泣いても笑ってもおそらくこれが最後

上位チャット:実況は俺ら、未だに呼び名が決まってないエルフさん視聴者

上位チャット:解説も俺ら、観客も俺らでお送りします

上位チャット:間もなく試合開始です

上位チャット:プレイボール!

上位チャット:ボール?

上位チャット:お前らのんきだなw

上位チャット:だって、特殊アイテム使用不可になってからが本番だし


「前回の投票は驚いたのじゃ。まさか、狂人のフリをするとは読めなかったのう」

「ん」

「じゃが、ワシらはミソラを吊らんかった! あれで勝負は終わりじゃ! もう、ワシのフリをしようとミソラのフリをしようと、すぐに看破できるのじゃ!」


上位チャット:実際、そこだよなー。質問責めであっさりバレちゃうだろうし

上位チャット:おや?

上位チャット:おやおや?

上位チャット:おやおやおや?

上位チャット:君、途中参加かい?

上位チャット:ちょっとトイレ行ってたけど……何かあったの?

上位チャット:エルフさんが俺らに攻略法聞いてた

上位チャット:……はい?


「ほれ、ミソラも何ぞ意気込みを言ってやるがいいのじゃ」

「……エルフさん、ひとついいですか?」

「なんだ?」

「リクくんの声で『お姉ちゃん、ハンバーグ食べたい』って甘えてください!」

「ワシ、意気込みと言うたよな!?」


上位チャット:逆神様www

上位チャット:草ァ!

上位チャット:コーヒー吹いた

上位チャット:麦茶、気管にダイレクトエントリーしました


「あーあー。こほん。お姉ちゃん、ハンバーグ食べたい」

「ふぁあああ! リクくんだぁあああ! いっぱい作ってあげるからねぇえええ!」

「ごはんも大盛りがいいな」

「山盛りにするねっ!」


上位チャット:めっちゃ嬉しそうw

上位チャット:逆神様、大暴走

上位チャット:スタッフ、あまり甘えてくれないんだろうなw


「あの、あのあの! 次は『お姉ちゃん大好き』でお願いしますっ!」

「ええい! 終わらんからやめんか!」

「ああー!」


上位チャット:強   制   終   了

上位チャット:スタッフが用意する罰ゲームが凄いことになってそうw

上位チャット:後のことは一切考えてないと見える

上位チャット:弟への愛深きがゆえの犯行だったということで


「ミソラ」

「あ、はい。エルフさん、なんでしょう?」

「今日はヨーキと勝負する」

「……そうですか、残念です」

「悪い」

「いえ、そんな気はしてたので」


上位チャット:そうなるよね

上位チャット:これはしかたない

上位チャット:選べるのは片方だからね

上位チャット:ところで、俺らに攻略法聞いてたってどういうこと?

上位チャット:ああ、簡単な話だよ


「時間じゃな……。ミソラ?」

「はい」

「はい」

「やはり、エルフはミソラを真似たんじゃな」

「そのようですね」

「そうみたいですね」

「では、問題じゃ! 《スカイハイ》で二番目の島の最初のコースで最初に出てくる敵が落とすアイテムは何か!」






「「――飛行アイテムです!」」






「……は?」


上位チャット:エルフさん、《 》の攻略法を聞いてたんだよ


「問題じゃ! 《遊星冒険ものがたり》第六エリア、海賊船の最後の隠しスイッチはどこにある?」

「「船体にひとつだけ壊せるブロックがあるのでそこから裏手に回ります」」

「問題じゃ! 《コマンダーの逆襲》最終ボスはどうやって撃破する?」

「「飛び降りながらヘリコプターの操縦席に撃ち込んで倒します」」


上位チャット:正しくは、逆神様がやったことがあるって言ってたゲーム全部の攻略法だね

上位チャット:炎太郎殺した後は、俺らが教えた攻略サイトをずーっと見てたよ

上位チャット:見てたというか超高速でページ切り替えてただけというか……

上位チャット:答えられるんだから読めたんだろうなぁ


 それからさらに酒呑幼子しゅてんようじは質問を重ねたが、ほとんどが正解であり、知識の差でエルフを見分けられるとはとても言えない結果となった。


「うかつじゃった……っ! 時間があれば、エルフは攻略法くらい丸暗記できると知っとったのに……!」

「あの、私が前回言ってなかったゲームも思い出したんですけど」

「いや、ダメじゃ。それもエルフが仕込んできた可能性がある。ゲームの攻略法はもうあてにならんのじゃ」


上位チャット:あえて五択を二択に絞り込んだのは、逆神様の情報を聞き出す意味があったんだな

上位チャット:で、エルフさんはどっちなの?

上位チャット:いや、俺らも知らない

上位チャット:当ててみろって言われてる


「何か……何か見分ける手段があるはずじゃ……」


 酒呑幼子しゅてんようじは動きを止め、より深く考え始めた。


上位チャット:長考に入ったな

上位チャット:幼女と逆神様って接点ないの?

上位チャット:全然ない

上位チャット:2.5Dは孤高の配信者ばかりだからな!

上位チャット:孤高?(キョーカちゃんを見ながら)

上位チャット:キョーカちゃんは歌にステータス全振りしただけだし!


 答えのないまま、じりじりと時間は過ぎる。

 制限時間まで二分を切ったところで、酒呑幼子しゅてんようじはようやく口を開いた。


「……素直に考えるなら、前回投票フェーズでエルフが入れ替わりアイテムを使ったはずなんじゃ」


上位チャット:お

上位チャット:これは……


「なぜなら、あえて狂人が人狼との入れ替わりをするとは考えにくいし、密かにエルフと通じる時間もなかったはずだからじゃ」

「はい」

「私もそう思います」

「であれば、エルフが入れ替わりアイテムをもうひとつ入手できる確率はとても低いはずじゃ。そうなると……」

「そうですよ! ですから、私が本物です!」

「ち、違います! 入れ替えられた私が本物ですっ!」


上位チャット:幼女はスタッフミソラをエルフだと推測したのか

上位チャット:ミソラミソラはエルフさんの疑いを免れた

上位チャット:紛らわしい凄く紛らわしい

上位チャット:アバターと声と正体が全部違うからしかたないw

上位チャット:しかしまあ、あれだ

上位チャット:うん、なんだ、あれだな

上位チャット:どうしようもないのだろうけど……

上位チャット:えない推理だな


「……っ!」


 酒呑幼子しゅてんようじは顔をしかめた。

 アバター越しにはわずかに。しかし、その心は荒れ狂っていた。

 視聴者が思う以上に、酒呑幼子しゅてんようじは自分の答えに納得していなかった。己を殴りつけたいほどに、こんな決着を許せずにいた。


「……」


 ――何か、違う証明を。


 己の頭で弾き出せない導出を求めて。


「……」


 ――何か、違う発想を。


 己の心が認めうる解答を求めて。


「……」


 されど、時計の針は進む。

 一分を切り、五十秒を過ぎ、四十秒を下回り、三十秒を迎えようとしていた。

《2.5D》事務所の収録ブースで、酒呑幼子しゅてんようじはモニタの前に突っ伏した。歯を食いしばり、まぶたをきつく閉じて、肩口まで揃えた髪に癖を付けて、それでも自分ひとりでは答えが見つけられなかったから。


「……くぅっ!」


 ――何か。何か。何か。何か。何か。








「――ヨーキが納得する答えを探せばいい」








 酒呑幼子しゅてんようじは目を大きく開いた。


上位チャット:エルフさん!?

上位チャット:え、ちょっとまだ投票時間中

上位チャット:わーわーわー!


「どっちがしゃべったかは、ナイショにしてくれ」


 酒呑幼子しゅてんようじが顔を上げたころには、二人のミソラだけが残っていた。


「それぞれに質問をするのじゃ! まず、そっち! 『挑戦』とは何じゃ!?」

「えっ……えーと……魂を煮えたぎらせるためのものです!」

「次はそっちじゃ! 『勝利』とは何じゃ!?」

「ええと、楽しむためのものですっ!」

「よし、決めたのじゃ!」


 制限時間一秒前。投票は出揃った。


【エルフさん視聴者視点】

人狼、エルフ(?)→死亡

キリシたん    →死亡

占、炎太郎    →◯ミソラ、死亡

ミソラ

狂人、リク    →◯ミソラ

人狼、キョーカ  →死亡

霊、社長     →●キョーカ、死亡

幼女

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