171.場違いな挑戦者
「場違いじゃな……」
首藤陽姫はことあるごとに疎外感を覚えていた。
幼いころから同い年の子供より一回り小さかった彼女にとって、人とは見上げるものであった。
勉強は苦労をしてしがみついていたが、運動は完全についていけなかった。
「はあはあ……ワシはどうしてここにいるんじゃろうか……?」
そうして体育の授業を嫌ってズル休みを始めると、状況はより悪くなった。
勉強に困るようになり、少なかった友人とも会話が減る。そうして、居づらくなった学校を休むという、悪循環に陥ってしまったのである。
「やっぱり、《スカイハイ》はいいのじゃ。これには極める価値があるのじゃ!」
彼女は挑戦者だが、逃亡した先での挑戦者だった。
◇◆◇
「あーっ! やられましたー! こんな簡単にエルフさんが封じられちゃうなんてー!」
「ドレミソラ先輩、人狼だったわよね……?」
「それとこれとは別です! 私がエルフさんを倒したかったんですよ!」
上位チャット:絶対エルフ倒したい逆神様
上位チャット:狂人を封じた村人に文句を言う人狼、何も間違ってないな
上位チャット:間違ってるのは文句の内容なんだよなぁ
「いい具合にミソラに気合が乗りました」
「あまり付き合いがない俺様が言うのもなんだが、お前でもそういうこと気にするのか」
「ええ、動画映えする空回りが期待できますので」
「……今俺様はひとりっ子でよかったと心底思ったぜ」
「冗談はさておき、僕もエルフさんに『胸を借りる』と宣言しましたから、このままでは終わらないつもりです」
「へっ! そういう顔もできるのか。いいぜ、俺様とも勝負だ!」
上位チャット:※顔は見えません
上位チャット:※今回、アバターです
上位チャット:※炎太郎は格好よさそうなことを勢いだけでしゃべります
上位チャット:炎民どもw
上位チャット:自分のチャンネルが一番アウェーなVがいると聞いて駆け付けました
「あー。アー。あー。ぁー。あー」
上位チャット:無限に「あー」言う機械になっちゃったキョーカちゃん
上位チャット:ああ、これキョーカちゃんひとりで出してる声なのか
上位チャット:全員揃ってなんで「あー」言ってるのかと思ったら
上位チャット:仕上げてきてますね
上位チャット:エルフさんは「エルフだから」で納得できるけどキョーカちゃんは純粋にビックリ人間
上位チャット:そこは「凄い」とかにしてあげてw
エルフ。エルフ。エルフ。
参加者の誰もが、とんでもない戦い方をするエルフに勝利するべく燃えていた。ただひとりを除いて。
「場違いじゃな……」
「む?
「社長? ワシ、何か言ったかの?」
「いや……聞き間違えかもしれないが」
上位チャット:なんか、ボソッとつぶやいたよね?
上位チャット:内容はわからないけど、何か聞こえた
「やっぱり、ミソラに似てる」
上位チャット:エルフさん?
「ヨーキ」
「なんじゃ、エルフ?」
「俺は凄いプレイをしたぞ?」
「なんか、このセリフ聞き覚えがあるんじゃが」
「――挑戦しないなら、RTA走者だなんて名乗るのはやめておけ」
「お主、全部それでどうにかできると思っとらんか!?」
上位チャット:たまに出てくる雑理解エルフさん草
上位チャット:奮起を促していることだけはわかったw
「だいたい、ワシは《スカイハイ》等の走者であって、このゲームは知らんのじゃ」
「そうか」
「そんな中で、お主がわけのわからない攻略法を作ったりそれを封じたり、そんな戦いなんぞ、ワシの戦場ではない!」
「そうか」
「ワシは……ワシにできることしかできん。挑戦したくないのじゃ……」
陽姫は歯を食いしばり、顔を伏せて覗き込むように前方を見上げる。まるで、そこに高い高い壁があるかのように。
そう、
「ヨーキ」
「――そんな顔して、『挑戦したくない』はないだろ」
口角を上げ、登り甲斐があると舌なめずりをするような顔で、壮絶に笑っていた。
上位チャット:※顔は見えてません
上位チャット:※今回、アバターです
上位チャット:※でも、エルフさんだしなぁ
上位チャット:※それな
「はははははッ! はーっはははははッ!」
上位チャット:幼女が!
上位チャット:どえらい悪い笑い方しとる!
上位チャット:悪い笑い方て
上位チャット:これは悪役幼女
「エルフよ」
「ん」
「……ノせたのはお主じゃからな?」
「おう」
「勝負じゃ! けちょんけちょんにしてやるのじゃ!」
「掛かってこい!」
上位チャット:来た来た来たぁ! この流れぇ!
上位チャット:うぉおおおおおおおお! 幼女復活! 幼女参戦!
上位チャット:幼女! 幼女!
上位チャット:幼女! 幼女!
上位チャット:世界最速! 酒飲み幼女!
「ワシにできんことはなーいっ!」
かつて、敵わない戦いから逃げ出した少女は、より強大なエルフの前で真に『挑戦者』となった。
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