141.たどり着いた幼女

「退くのじゃあ!」


 透明なバグブロックを抱えた酒飲み幼女が走る走る。迫りくる敵を受け流し、待ち構える障害物をくぐって、飛び石の小さな足場で加速を続ける。


上位チャット:おらおら、退くんだよ!

上位チャット:邪魔する雑魚には死んでもらう!

上位チャット:ワシらはエルフ組のもんじゃ!

上位チャット:幼女会じゃないの?

上位チャット:そっちはフロント企業


「どんなシノギをしてるんだ?」

「何の話じゃ!? 人生一、集中しとるんじゃから乱すでない!」


上位チャット:動けなくても存在感を放つエルフさん

上位チャット:本当に指一本動いてないんだけど、言ってることはいつも通り

上位チャット:さあ、そろそろ壁だぞ


「飛ぶのじゃ!」


 最高速に入った酒飲み幼女は離陸する。成功か失敗かはあと十秒もせずに判明する。


「あああああ、くっそ怖いんじゃあ!」

「知ってる」

「そんな一言で済ますんじゃないわい! ――ここじゃあ!」


 果たして、酒飲み幼女は透明なブロックを空中に投げ置いた。

 その位置がどこなのかは誰にも見えない。だが、


上位チャット:乗ったぁああああああああ

上位チャット:飛んだ飛んだ飛んだ!

上位チャット:できてるじゃああああん


「っしゃあ! これがワシの実力じゃ!」


上位チャット:お、おお、越えた? 越えたよな?

上位チャット:壁越えしてますね!

上位チャット:キャラは画面外だけど、スクロールしてるから確実に越えてる!

上位チャット:新ルート開拓成功!

上位チャット:でも、結構タイムロスあったな

上位チャット:これだと世界記録は……


「獲れるぞ」

「はっ?」


上位チャット:え

上位チャット:あ

上位チャット:はああああ?


「なんじゃこれ……?」

「ゴールだぞ」

「それはわかるわい! なんで、こんな壁の上にゴールがあるんじゃ!?」


上位チャット:マジで何がどうして

上位チャット:急にリザルト画面出てびっくりしたんだけど

上位チャット:エルフさん、説明を! 説明をください!


「このステージの本来のゴールは一番高い場所にあるだろ?」

「うむ。上下に行き来しながら、ラスボスの住まう天空城にたどり着くステージじゃからの」

「この壁はゴールと同じ高さなんだ」

「ふむ」

「だから、壁の上を走ってたらループしてるゴールに入れる」

「は?」


上位チャット:え?

上位チャット:はい?

上位チャット:何のこと?

上位チャット:あ

上位チャット:わかったのか?

上位チャット:ほら、スカイハイは上空のオブジェクト配置をループしてることが多いって、幼女がエルフさんに説明してたじゃん?

上位チャット:あー

上位チャット:したなぁ

上位チャット:そして、このステージで壁の高さに存在するマップはゴール前後だけ

上位チャット:……つまり、そういうこと?

上位チャット:だろうな

上位チャット:マジか

上位チャット:よもや、ゴールもループ配置されるオブジェクトだったとは……


「……エルフが絡むと本当にめちゃくちゃになるのう」

「やったのは酒飲み幼女だぞ?」

「ワシが悪いのか!?」


上位チャット:幼女がゲーム壊したー

上位チャット:その分、新しいゲームを経費で購入したー

上位チャット:これが幼女会のシノギか


「何の話じゃあ!?」


        ◇◆◇


「ふぅ……」

「社長、ハーブティーです」


 肩の力を抜いてイスに掛け直した青年に、瀬貝はカップを差し出した。


「ありがとう、瀬貝くん」

「これがつとめですから」


 青年の前にあるモニタでは、酒呑幼子しゅてんようじとめなく流れる涙をそででぐしぐしとぬぐっていた。


「社長は、エルフさんが酒呑幼子しゅてんようじの心に火を点けてくれることを期待したのではないのですか?」

「期待した。だが、ミスに心折れかけた酒呑幼子しゅてんようじをもう一度立ち上がらせてくれるとまでは思っていなかった」

「そういうことでしたか」

「肝が冷えたよ」


 飲み干したカップを置くと、青年は次の仕事のために忙しく席を立つ。


「世界一、おめでとう」


 モニタの向こうで、少女がエルフを抱き締めて笑っていた。


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