139.熱い戦い

「そのハシゴは右から回り込んだ方が早いぞ」

「右ルートじゃな! 行くのじゃ!」

「飛ぶ敵は当たらない。止まらなくていい」

「ぉおおおっほう!? 当たらん! ギリ当たらんの怖いのじゃ! わはははは!」


上位チャット:うぉおおお! ホントに当たんねえ!

上位チャット:こわいこわいこわい!

上位チャット:抜けた!

上位チャット:お邪魔します死ねぇ!

上位チャット:よし、ボス瞬殺!

上位チャット:タイムは?

上位チャット:二の城で八分三十二秒四一!

上位チャット:三秒巻いてるじゃん!


「次じゃ! 注意するところはあるか?」

「中盤のジェット地帯は少し手前で降りろ。コンマ一秒稼げるぞ」

「タイミングは任せたのじゃ!」

「おう」

「他は?」

「ない」

「っしゃあ! 行くのじゃあ!」


上位チャット:行けぇ!

上位チャット:晩ごはんまでに帰ってくるのよ!


「今」

「おっけーじゃ!」


上位チャット:その小島に着地できんの!?

上位チャット:ちょおおお!?

上位チャット:あっぶな!

上位チャット:トゲ当たる当たる当たる!


「当たらん! そういう流れはしとらん!」

「減速忘れてるぞ」

「ちょわぁあああっ!?」


上位チャット:流れならしかたない

上位チャット:この勢いよ

上位チャット:生き残ったからセーフ


「エルフ、このステージでショートカットする方法はないかの?」

「リスクの高い方と低い方、どっちがいい?」

「無論、リスクの高い方じゃ!」

「タイムは同じだぞ?」

「なんで聞いたんじゃ!?」


上位チャット:リターン同じは草

上位チャット:本当になんで聞いたのw

上位チャット:しかし、エルフさんが協力したら、凄いことになってきたな

上位チャット:これが実用化に成功したエルフナビの力か

上位チャット:テストプレイもせずに新規ルート開拓するエルフさんもやばいけど、ちゃんと狙い通りに走れる幼女も大概おかしい


「っふぅー……」

「何か飲むか?」

「ミソラ汁はお腹いっぱいじゃぞ」

「緊張を飲み込みたいんだろ?」

「……本当に、お主は鋭いのう」


上位チャット:またエルフさんが謎の洞察力発揮してる

上位チャット:それより四城終わったぞ

上位チャット:タイムは?

上位チャット:世界記録を六秒先行してる

上位チャット:でも、問題は

上位チャット:ここからが本番


「飲み物は要らんのじゃ」

「いいのか?」

「今は緊張を感じていたくての」

「ん」


上位チャット:五-一クリア

上位チャット:さあ、始まるぞ

上位チャット:うわぁああ、怖いぃいい

上位チャット:頼むからミスんないでぇえええ


「酒飲み幼女」

「なんじゃ?」

「世界一になってこい」

「任せよ!」


 酒飲み幼女の鬼門、五-二が始まる。

 噴煙立ち込める火山地帯。噴き出す溶岩を降り注ぐ火山弾を避けながら、酒飲み幼女は進む進む。無数の検証の上に敷いた、ルートという名のレールが彼女を雄々しく走らせた。

 この美しさはキリシたんとも炎太郎とも違うものだった。


「RTAもいいものだな」

「なんじゃ、エルフ。気付くのが遅いぞ」


上位チャット:俺もこんな熱いものだとは知らなかったわ

上位チャット:ちょっとだけやってみたいと思った

上位チャット:浸かれば二度とは抜け出せぬRTA沼へようこそ

上位チャット:イーヒヒヒ、布教成功でござるぅー

上位チャット:悪いもののような気がしてきましたよ


 前半の猛攻をくぐり抜け、いよいよ中間地点へ。

 ドアの先にあったスイッチを持って、わずかに逆走。再度ドアを開くと、そこにもスイッチがある。

 二つのスイッチを並べ、そこに飛び乗る。


「ダブルスイッチバグ――RTAを始めるのじゃああああ!」


 酒飲み幼女は小ジャンプをし、すぐさま走り出す。

 天をく高い壁の下。ワープ中のデモで本来は飛ばされるはずの敵の密集地帯に、酒飲み幼女は飛び込んだ。


「とおっ! っせい!」


 ぐねぐねとした順路に、前へ後ろへ上へ下へと走らせられる。ジャンプ、ダッシュ、ジェット。すべてを用い、最小限の敵だけを蹴散らして突き進む。

 そして、


「ここじゃあっ!」


上位チャット:ぉおおおお!

上位チャット:越えた!


「っふぅ……」


 十秒以上続いた激しい切り返しの連続。酒飲み幼女はついに難所を突破し、


「止まるな!」

「あっ……」


上位チャット:あ

上位チャット:あ

上位チャット:あああああ


 ほんのわずかな操作ミスで――命を落とした。


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