128.確認は大事

「お」


上位チャット:なにあれ?

上位チャット:部屋の中に部屋がある


「防音室だな」


 訪れた部屋の角に、三畳ほどを占める小部屋があった。ドアの横にある小窓から覗くと、アップライトピアノといくつかの電子機材が見えた。


上位チャット:ほー

上位チャット:防音室ってこんなちっちゃいんだな

上位チャット:走り回れない

上位チャット:俺ん家にも置いて思う存分カラオケしてみたい


「これ、一〇〇万はするぞ」


上位チャット:え、これそんな高いの?

上位チャット:日本円で?

上位チャット:配信者はみんな防音室買えばいいのにとか思ってすみませんでした

上位チャット:エルフさん、よく知ってるね


「前にキョーカがカタログ見てた」


上位チャット:あー

上位チャット:それで覚えてるあたりエルフさんだわ


「値は張るけど遮音性がいいと言ってた」


上位チャット:へえ

上位チャット:他には何か言ってた?


「『だから、わたしだけの部屋が欲しいって意味じゃないよ!』って言ってた」


上位チャット:子供部屋出て行っちゃうお兄ちゃんを必死に止めるキョーカちゃん

上位チャット:想像できる想像できるw

上位チャット:ここは練習用の部屋なのかな?


「いや、配信用だな」


上位チャット:おっと

上位チャット:何か根拠が?


「前にキリシたんが付けてた丸いのがある」


 俺は防音室の前に置かれた機材にカメラを向ける。


上位チャット:ジャイロセンサーか

上位チャット:ああ、アバター動かすのに使ってるやつ

上位チャット:2.5Dはぬるぬる動くの本当に好き

上位チャット:よそも導入してくれないかなぁ


「隣の部屋も同じだな」


 防音室と機材に、人が待機したり指示を出すスペースが少々。防音室内の備品は少し違うようだが、そこは同じだ。


上位チャット:つまり、ここが収録ブースか

上位チャット:事務所っていうけど、思ったほど事務スペースないな

上位チャット:というか社員自体少ないのでは?

上位チャット:もしや、社長と秘書で全員か?


「ゲームあった」


 防音室の中に、モニタとゲーム機を発見した。


上位チャット:【祝】エルフさん、ゲーム機を認識できる

上位チャット:やったぜ

上位チャット:探   検   成   功

上位チャット:我々の手に掛かればちょろいもんです

上位チャット:最初から知っていた答え

上位チャット:歯ごたえがないな、ガハハ

上位チャット:で、ソフトは?


「ない」


上位チャット:フタ開けてみて

上位チャット:中央のボタン押して


「ない」


上位チャット:ないですね

上位チャット:探   索   失   敗

上位チャット:我々はやってない

上位チャット:知らない

上位チャット:ちょっとー男子ー噛み切れないよー

上位チャット:どうすんだこれ


「どこかにあるだろ」


上位チャット:第二次探索開始

上位チャット:進めー

上位チャット:お?

上位チャット:どこ行くの、エルフさん?


「こっちの部屋からゲームの音がする」


上位チャット:聞こえる?

上位チャット:何も

上位チャット:微塵も

上位チャット:さっぱり

上位チャット:音量上げて確認するといいぞ!

上位チャット:お前、前にそれやって鼓膜吹っ飛ばしたやつだろw

上位チャット:ァァァァァ

上位チャット:遅かった


「ここ」


上位チャット:お、防音室に明かり点いてる

上位チャット:誰かいますね

上位チャット:でも、音は聞こえない

上位チャット:音量上げて確認するといいぞ!

上位チャット:音量上げて確認するといいぞ!

上位チャット:増えてるw

上位チャット:負の連鎖


「邪魔するぞ」

「おお、瀬貝さんかの? ちょうどよかったのじゃ。済まんが、何でもいいからワシに飲み物をくれんか?」

「ん」


 アイマスクをしながらゲームをしている女の子に、俺は持っていた缶を手渡した。


上位チャット:あ

上位チャット:それは


「ブウッフェエエエエェ!? な、ゲフッ!? なんじゃ、こりゃあ!?」

「ミソラ汁」


上位チャット:せめて、ミソラジュースって言ってあげて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る