102.サドンデス

「甘いわよ、エルフっ!」


 俺が投げたタルとその跳弾を軽々と回避しながら、キリシたんは俺へタルを投げた。


上位チャット:落ちる落ちる落ちる!

上位チャット:引っ掛かれーーーーーーーーー

上位チャット:ひゅーっ! あっぶねぇ!

上位チャット:エルフさんが負けたかと思った!


「あああああ、もう! なんで、あれで落ちないのよっ!」


 キリシたんが投げたタルは、コートに生えたタルとの衝突でコースを変えて、俺が逃げた先を追ってきたのだ。

 おそらくは偶然ではなく俺の動きを読んで狙ったのだろう。

 技を持っているだけではない。駆け引きで勝負ができる。それはつまり、


「キリシたんは強いな」

「生き残って言うことじゃないでしょうが!」

「怒られた」


上位チャット:草

上位チャット:褒めて怒られるエルフ

上位チャット:タイミングが悪いw

上位チャット:しかし、エルフさんは劣勢か


「タルは減らしてるんだけどな」


 自陣とキリシたん陣の状況は対照的だ。

 俺は生えたそばから積極的に投げて、反射しうるタルを減らしている。

 一方のキリシたんは、投げるタルを常に複数キープして、俺のそばにタルが生えるタイミングで二度三度と追撃をする。

 防御と攻撃。だが、うまい対処ではなかったようだ。


上位チャット:サドンデス始まった


「サドンデス?」


上位チャット:左右の足場がなくなる

上位チャット:決着するまでコートが細くなり続けるモードです

上位チャット:つまり、ピンチ


「そうよ! 今すでにギリギリのエルフは当たれば確実におしまいってこと!」

「おっと」


 すんでのところで、キリシたんのタルを避けた。

 でも、その間にもコートの左右は崩壊を続けている。


上位チャット:まずーい!

上位チャット:過去最大のピンチエルフ

上位チャット:子羊はキリシたんの勝利を寿ことほぎます

上位チャット:プシュっと寿ことほぎます

上位チャット:平日の真っ昼間っから飲むな


「うおっと」


上位チャット:危ない危ない!

上位チャット:セーフ! セェーフ!

上位チャット:せめて、狭くなるのが前後だったらなぁ

上位チャット:いやいや、前後だと簡単になりすぎるから


「前後だと簡単って何?」


上位チャット:ほら、飛んでくるタルを視認できる時間が単純に短くなるでしょ?

上位チャット:だから、避けにくく受けにくくなる

上位チャット:最終的に、中央ライン上で戦うことになるね

上位チャット:チュッ

上位チャット:左右も狭くなってるじゃねーかw

上位チャット:……ん?

上位チャット:エルフさん、タル三つも集めてどうするの?


「短くする」


上位チャット:何を?

上位チャット:え

上位チャット:投げモーション

上位チャット:どっち向いてんの


「……何をする気?」

「タルを視認できる時間を短くする」


 俺は自陣後方に置いたタルにタルを投げ当て、素早く別のタルを掴む。

 反射したタルは投げた俺のところに戻ってきて――




「行くぞ」




 ――俺を、キリシたん陣に向けて猛烈な勢いで弾き飛ばした。


上位チャット:ええええええええええええええええええ

上位チャット:嘘!?

上位チャット:何それ!?

上位チャット:自分で自分を反射させた!?


「ちょっ!? 待っ、あ、あああああああああっ!?」


上位チャット:うーわ

上位チャット:飛ばされながら投げられるって、初めて知った……

上位チャット:エルフさんでもなけりゃ、そんなこと試さないからw

上位チャット:キリシたん、すっげぇ速度で場外に飛んでったな

上位チャット:タルに飛ばされる速度が加算されたんだろう

上位チャット:なるほど、視認できる時間が短くなったな

上位チャット:これは革命では?

上位チャット:タルを集めてるところを攻撃すれば、こんなアクロバットはできないでしょwww


「キョー……セイレーンが残ってたら、後ろから投げてもらったぞ」


上位チャット:……アクロバットじゃない方法が出てきちゃいましたよ?

上位チャット:いかん、俺たちの何気ない一言から変な攻略法が生まれてしまった!

上位チャット:たち?

上位チャット:俺たちの注意が甘かったせいで!

上位チャット:たち?

上位チャット:俺たちの! 俺たちによる! 俺たちのための政治!

上位チャット:政治?


「勝った」


上位チャット:子羊はキリシたんの敗北を悔しがります

上位チャット:プシュっと悔しがります

上位チャット:二本目に突入するな

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