96.新バージョン「覚えた」

「今度は振り子か」


 シーソーを使った谷越え大ジャンプの先に待っていたのは、キャラクターの一〇倍ほどある巨大な五つの振り子が左右を往復するエリア。

 足元には前後逆方向に動くベルトコンベアが配置されていて、タイミングを誤ったプレイヤーが次々に振り子に弾き飛ばされて谷底へ落ちていく。


「行く」


上位チャット:行ってら

上位チャット:さて、出遅れを取り戻せるかな?

上位チャット:いやー、この単純なのが意外に難しいんだわ

上位チャット:だよなぁ

上位チャット:とか言ってたら、エルフさんがすいすい避けてくw

上位チャット:(俺には)難しいんだわ

上位チャット:(俺にも)難しいんだわ


「一番前、取った」


 俺はうまいこと、振り子の通過待ちをするプレイヤーの先頭に滑り込んだ。


上位チャット:あ

上位チャット:ちょ

上位チャット:掴まれた!

上位チャット:エルフさーん!


「落ちた」


 すぐ後ろに並んでいたプレイヤーに掴まれた俺は、そのまま振り子に向けてポイと捨てられ、かっ飛ばされて谷底に消えた。


上位チャット:無防備に背中を晒しちゃいけません

上位チャット:今のはちょっと、うかつだったね


「面白いなこれ!」


上位チャット:でも、ご機嫌

上位チャット:わくわくしておられる

上位チャット:何かがエルフさんの中でヒットしたようです


「よし、早く前線に戻るぞ」


 谷底からの復帰ポイントはシーソー前。どうやら、もう一度、谷越えをしないといけないらしい。


上位チャット:頑張れー

上位チャット:フレフレエルフ、フレフレエルフ


「お兄ちゃん」

「む、キョー……セイレーン」


 タルを担いでシーソー前まで戻ってきた俺を待っていたのは、キョーカだった。


上位チャット:二度目の邂逅

上位チャット:これは……


「どうして、ここに?」

「わたしも振り子エリアで運悪く後ろに弾かれちゃって、エリアごと戻されちゃったの」

「そうか」

「うん」

「俺は先を急ぐからまたな」


上位チャット:回避!

上位チャット:そそくさ去るエルフw


「お兄ちゃん」

「おう」

「タルちょうだい」


上位チャット:立ち塞がるセイレーン

上位チャット:腕尽くで来た

上位チャット:さあ、エルフさんはどうする


「えい」

「あーっ!? お兄ちゃんがわたし投げたーっ!」

「ごめんな、キョ……セイレーン。俺も次のステージ遊びたい」


上位チャット:セイレーン、谷底に落としたw

上位チャット:二回目はダメでした


「よーし、跳ぶぞー!」


 俺はさっさとシーソーに乗り込む。準備よし。いざ、タル投擲――


「うおっ」

「油断したわね、エルフ!」


 タルを投擲する直前、俺は飛来したタルにシーソーから弾き出されてしまった。


上位チャット:キリシたん!

上位チャット:どっから投げた!?

上位チャット:ベルエリアの巨大目覚ましの上から投げてたよ

上位チャット:そんな遠くから


「ふふん。狙撃はあたしの専売特許よ! 乗り込むとわかってるシーソーを狙うくらいできるに決まってるじゃない!」


上位チャット:※キリシたんはガンフィールドでエルフさんに着地狩りされました

上位チャット:あー、お返し狙ってたのかw

上位チャット:キリシたん、やるぅ!


「むう、やられた」


 俺のキャラクターは、タルを食らった影響で操作を受け付けず、頭の周りにヒヨコを羽ばたかせてフラフラしている。八秒ほど、この状態らしい。


「お兄ちゃん」


上位チャット:あ

上位チャット:あっ

上位チャット:セイレーン


「どうして、ここに?」

「それはね」


上位チャット:笑顔でタルを構えるセイレーン

上位チャット:ま、待て、話せばわかる!

上位チャット:それ、だいたいわからないやつw


「お兄ちゃんに落とされたからだよっ!」


上位チャット:あーれー

上位チャット:案の定

上位チャット:谷底に消えるエルフ

上位チャット:お返し連鎖w

上位チャット:まあ、これだけ投げられれば「覚えた」できるんじゃない?


「忘れない」


上位チャット:違うもの覚えてない?

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