91.延ばしたいエルフさん

 ピリリリリ!


「ん?」

「あっ。ごめんね、お兄ちゃん」


 キョーカは自分のスマホを取り出して、アラームを切った。


上位チャット:なんだなんだ?

上位チャット:何か予定?


「はい。わたしの電車の予定です。用事を済ませたら帰ることになっているので」


上位チャット:えっ、帰っちゃうの?

上位チャット:エルフとセイレーンは、いつまでも姉妹仲良く暮らすはずでは?

上位チャット:童話かな?

上位チャット:草


「もう少しくらい泊まっていかないか?」

「わたしもできるなら、そうしたいんだけど……」

「あと一ヶ月くらい」

「長いよ!?」


上位チャット:少しとは

上位チャット:ところで、用事って何?


「《2.5D》の事務所での打ち合わせです。社長さんと瀬貝さんを交えて、編曲家さんたちと新曲について話してきました」


上位チャット:新曲!

上位チャット:セイレーンの新曲!

上位チャット:それはもしかして、まだ未公開の!?


「あ、はい。凄くいい曲になったので、ぜひ聴いてください」


上位チャット:っしゃー!

上位チャット:一億回ダウンロードする!

上位チャット:船乗り大歓喜

上位チャット:エルフさん経由で昨日初めて聞いたけど、それは買うわ

上位チャット:それにしても朝早いな、結構遠いの?


「いえ、もう一回事務所に寄ってから帰るつもりなので、時間を早めました」


上位チャット:なんでまた?

上位チャット:忘れ物?


「えっと……昨日のことがとっても楽しくて、一曲、思いついちゃったので、それを渡してから帰ろうかと」

「もう少しくらい泊まっていかないか?」

「さっきも聞いたよね?」

「あと二ヶ月くらい」

「延びてない!?」


上位チャット:エルフさんw

上位チャット:気持ちはわかるがw

上位チャット:曲ってそんな簡単にできるものなの?

上位チャット:割とひらめきの領域だから、来たら一瞬

上位チャット:でも、なかなか来ないから苦しむんだよな(秋に文化祭でやる曲ができない)

上位チャット:それな(ライブまであと二週間なのに真っ白)

上位チャット:お前らw


「思いついた曲ってこれか?」

「あ、うん! それそれ」

「じゃあ、失くさないようにな」

「……あれ? お兄ちゃん、この楽譜、どこから出したの?」

「テーブルの上にあったぞ」


上位チャット:キョーカちゃんが大分歌にステータス食われてるのは理解したw

上位チャット:エルフさんとは別種の危なっかしさを感じる

上位チャット:人と関わらないクールなセイレーンとお兄ちゃん大好きおっちょこちょいキョーカちゃんは別人だから

上位チャット:こいつ……記憶を……!

上位チャット:キョーカちゃん、本当に大丈夫?

上位チャット:船乗りは忘れないか心配です


「はいはいはい! わたしの話はここまで! 大丈夫だから! 忘れないから! それより、今日、お兄ちゃんは何か予定あるの?」

「リベンジしに行く」

「……リベンジ?」


上位チャット:誰に?

上位チャット:何を?

上位チャット:というか、何かリベンジするようなことあったっけ?


「俺は配信中に何人かと勝負したわけだが、結構負けてる」


上位チャット:そうだっけ?

上位チャット:●キリシたん

上位チャット:○炎太郎

上位チャット:●逆神様

上位チャット:●セイレーン

上位チャット:一勝三敗か

上位チャット:印象よりずっと負けてるな


「キリシたんにもリベンジを約束したぞ」


上位チャット:したっけ?

上位チャット:雨の日の配信は協力プレイだったけど

上位チャット:お面ライダーのときに、エルフさんがキリシたんにリベンジしたいって言ってる

上位チャット:あー、あったあった


「だから、傘を返しに行くついでにキリシたんを倒す」


上位チャット:ついで、で倒されるキリシたん

上位チャット:キリシたんコラボもこれで三回目か

上位チャット:この短期間で凄い回数だな

上位チャット:いやー、今日もキリシたんのツッコミが炸裂すると思うと楽しみ

上位チャット:おや……キョーカちゃん? どしたの?


「……お兄ちゃんは、キリシたんさんのところに前も遊びに行ったの?」

「おう!」

「う、うー……」


上位チャット:博士、これは!?

上位チャット:他の子のところに遊びに行く兄を止めたいけど、止める理由がなくてモヤモヤしているお兄ちゃん大好きっ子じゃ!


「キョーカも一緒に行くか?」

「それは……理由がないし……」

「同僚なんだろ? 『兄が世話になってます』と菓子折りを持って訪ねに行っても変じゃないはず」

「う、うーん……」


上位チャット:ギリギリ通りそうな理屈

上位チャット:でも、なかなか素直になれないまま時間ばかりが過ぎていって、幼なじみのあの子とくっついちゃってから、お兄ちゃんに好きって言えなかったことを後悔するのじゃ!

上位チャット:こいつ……記憶を……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る