81.観客が増えるということはつまり
催事場に、カラオケマシンがセッティングされた。誰か働き掛けたのか、デパート側の厚意ですぐさまこれを借りることができたのだ。
ヒーローショーの観客もほとんど帰らず、それどころか、人が増えて座るイスすら足りなくなっていた。
つまり、
「のど自慢大会は人気」
上位チャット:違う
上位チャット:どうしてそうなった
上位チャット:エルフさんw
上位チャット:のど自慢って言葉、すっげぇ久しぶりに聞いたわw
「お兄ちゃん、勝負だけど……カラオケしたこと、ある?」
「ない」
「えっとね。まず、検索窓に曲名か歌手名か歌詞の一部を入力するの」
「ふむふむ」
上位チャット:初歩の初歩から始まったぞw
上位チャット:キョーカちゃんは凄いレベルで歌えるのに、本当に勝負になるのォ?
上位チャット:その言葉、何回言ったことか……
上位チャット:オレ知ってる。どうせエルフする。これサバンナのオキテ
「覚えた」
上位チャット:よくできました
上位チャット:一度の説明で覚えたエルフさんはいい子
上位チャット:この覚えたは可愛い
「それじゃあ……わたし、本気で行くからね」
「おう!」
上位チャット:ん?
上位チャット:あれ? キョーカちゃんの声、こんな高かったっけ?
上位チャット:っていうか、どこかで聞いたような……
上位チャット:お、イントロ始まった
「――聴け! わたしの声を! 聴け! わたしの歌を! 聴け! わたしの心を! わたしは、負けない!」
上位チャット:セイレーンだ!
上位チャット:おおおおお!
上位チャット:セイレーンの『告白絶唱』じゃん!
上位チャット:高い音も出せるのか!
上位チャット:音程表示も全部金色だ!
上位チャット:すっげぇ! 声までそっくりだ!
「――わたしが見つけた、この気持ち! もう誰にも邪魔させない! あなたにだって否定させない! 『愛してる』!」
上位チャット:そっくりっていうか……
上位チャット:ちょっと、その、上手過ぎるよね?
上位チャット:非常に言いにくいことを思いついたのですが、皆さんも同じ気持ちですか?
上位チャット:多分、同じだな
上位チャット:同じだろう
上位チャット:これ、本当に真似……?
「――聴け! わたしの声を! 聴け! わたしの歌を! 聴け! わたしの心を! わたしは、『愛してる』!」
キョーカが歌い終え、アウトロだけが流れる頃になって、ようやく、静まり返っていた会場がざわめき出す。
おそらく口にしたい言葉は皆一緒なのだろう。そわそわとした様子で待ち続ける。
カラオケマシンの採点が表示されると同時に、会場は爆発したような歓声に包まれた。
「凄い!」「今のは何だったの!?」「最高!」「ブラボー!」
上位チャット:九九.五って……
上位チャット:これ、めっちゃ判定厳しいマシンなのに
上位チャット:俺、九〇点台すら出したことないぞ
上位チャット:いや、点数よりもこの反応だろ!
上位チャット:ライブ会場みたいな盛り上がりしてるぅ!
上位チャット:カラオケ名人なんかの歌じゃないよ、これぇ!?
「お兄ちゃん、どう? 今のわたしの歌は?」
「覚えた」
「えっ?」
「じゃ、行ってくる」
「あ、ちょっ、お兄ちゃん!?」
上位チャット:あかんやつだ、これぇえええええ!?
上位チャット:待って待って待ってぇ!?
上位チャット:やばい展開来ちゃったー!?
上位チャット:違うの、エルフさん! 今のは「負けないぞ」とか「歌上手だったよ」とかそういうお返事をする場面だったの!
上位チャット:この覚えたは可愛くないやつぅ!
「――聴け! わたしの声を! 聴け! わたしの歌を! 聴け! わたしの心を! わたしは、負けない!」
「えええええっ!?」
上位チャット:声は違うけどうまいィ!?
上位チャット:これはもうダメなやつですね……
上位チャット:お疲れ様でした
上位チャット:諦めるの早いよ!
上位チャット:オレ知ってた。やっぱりエルフした。これサバンナのオキテ
「勝った」
上位チャット:あーあー、どうすんのこれー
上位チャット:すげー、一〇〇点って出るんだぁ……
上位チャット:初めて満点を見た感動、エルフさんに上書きされるの巻
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