79.台本通りのアドリブ

 台本はとても簡単だ。

 一対二の不利を跳ね除けた怪人を、ヒーロー五人が集まり、力を振り絞って倒す。


「つまり、五人掛かりでも倒せない怪人が必要」


上位チャット:違います

上位チャット:違うと思う

上位チャット:違ってるかと

上位チャット:一面の中ボスかと思ったら裏ボスだった感


「えい」

「ぐわぁーっ!?」

「やあ」

「どわぁーっ!?」

「とう」

「でわぁーっ!?」


 パンチもキックも全部、手と髪の毛で受け止めて、投げ飛ばした。


上位チャット:ひどいことになってるw

上位チャット:ぽんぽんふっ飛ばされとるw

上位チャット:五人相手に楽勝、これがエルフか……

上位チャット:エルフってそんな戦闘民族っぽいのだっけ?


「ぉおおおおっ!」

「む」


上位チャット:組み合った!

上位チャット:いや、組み合うのは不利では?

上位チャット:エルフさんだけ、腕三本も四本もあるようなもんだしな


「お嬢さん、済まないが普通に倒されてはくれないか?」


上位チャット:ああ、こっそり打ち合わせるためか

上位チャット:エルフさんにマイク付いてなきゃ聞こえんわな

上位チャット:ちょっと尻すぼみだけど、一件落着

上位チャット:しかたないね


「ダメ」

「ぬわぁー!?」


上位チャット:ダメてw

上位チャット:触手に絡まれるヒーロー

上位チャット:すみません、それ、エルフレーザーなんです

上位チャット:レーザーってなんだっけ?

上位チャット:ビームより細いのです


「お、お嬢さんっ!」

「お前らが、次のチャンスがないとなげいたのは、そんな台本通りのショーなのか?」

「うっ……!」


上位チャット:いや、そうだと思いますよ?

上位チャット:いかん、エルフさん名物、変な説得力が発動してる!

上位チャット:変な説得力w


「溢れる熱気、お前らの勝利を本気で願う観客。誰もが瞬きひとつせずに行く末を注視している」

「ぼ、僕は……僕らは……」


上位チャット:ガチで髪の毛逆立ちの危機だもんな

上位チャット:そりゃ、真剣になるw

上位チャット:まあ、茶化さなくても、このショーは面白いんだけどさ


「――掛かってこい、ヒーロー。助けは呼べないぞ。お前らこそがヒーローなんだからな」


上位チャット:あーあーあー、これは回避不能ですわ

上位チャット:こんなん言われたら、俺でもエルフさんに立ち向かう

上位チャット:一生に一度でいいから声に出して言われてみたい日本語


「……っ! みんな! アレをやるぞ!」

「リーダー!? アレは間に合わなかったのよっ!?」

「そうだよ! 失敗したら、リーダーが大怪我をしちゃうよ!」


 決意する男。危険を訴える仲間たち。

 でも、その程度でひるがえすようなやつは、俺なんて部外者を入れてまで足掻あがかない。


「客入りの見込めない平日の日中。それが僕らに与えられた最後の舞台。主催者にもデパートにも期待されていない。そんな舞台が大成功したら――格好よくないか?」


上位チャット:ちたな

上位チャット:怪人にそそのかされて言いなりになるヒーロー

上位チャット:本来の目的を忘れた悲しき戦士たち

上位チャット:だが、その目には保温ランプの光が宿っている!

上位チャット:さあ行け、ヒーロー!

上位チャット:保温戦隊デンシジャー!


「行くぞ、怪人エルフマン! 僕らの必殺技を食らえ!」

「おう」


 四人が集まって、リーダーと呼ばれた男を横にしたまま担ぎ上げる。


上位チャット:どうする気だ?

上位チャット:公式にある技なの?

上位チャット:俺、戦隊ヒーローとか全然詳しくないけど、こんな技ないよ? 強いていえば、郵便戦隊メッセンジャーのポストダンクの前フリが似てるらしいけど、知らないな

上位チャット:草


「僕たちの心はレーザーなんかじゃ止められないぞ!」

「来い」


 四人は、リーダーを担ぎ上げたまま助走し、そして、


「「「「とぉりゃあああああ!」」」」


上位チャット:投げたぁあああああ!?

上位チャット:ちょw

上位チャット:おおおおい!?


「エルフビーム!」


 投げ付けられたリーダー目掛けて、髪の毛最大出力。


「……お嬢さん、信じてたよ」

「『レーザーなんかじゃ止められない』んだろ?」

「ナイスアドリブ」

「ん」


 リーダーを受け止めて、揉み合うように倒れ込む。


上位チャット:決まったぁ!

上位チャット:エルフさん!

上位チャット:デンシレッド!


 台本はとても簡単だ。

 一対二を跳ね除けた怪人を、ヒーロー五人が集まり、力を振り絞って倒す。


「やられた」


 俺は満足して降参した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る