75.遅れてやってくる

「見えるかー?」


上位チャット:エルフさん!

上位チャット:やっと、エルフさんがこの世界に帰ってきたぞ!

上位チャット:修理成功! 繰り返す、カメラ修理成功!

上位チャット:ばんざーい、ばんざーい!

上位チャット:これで、画面に映ってた父親似の野郎の顔とおさらばできるぜ!

上位チャット:今後も洗面所や風呂場で見掛けることになるぞw

上位チャット:よかったよかった

上位チャット:ここは屋上?


「ん」


 今、俺たちがいるのはデパートの屋上にある催事場だ。簡単な催しができる中央の広間には何台かの丸テーブルが配置されており、その広間の周囲に屋台が並んでいた。

 月曜日の十四時過ぎなのだし、もっとまばらかと思ったが、意外にも訪れている親子連れの数が多い。これも夏休みの効果なのだろうか。


「テーブルが欲しかったから」


上位チャット:ああ、カメラ起動するのにか

上位チャット:ノートパソコン側の設定もあるもんね

上位チャット:これは賢いエルフ


「という建前で、屋台のあるところに連れてきた」


上位チャット:こいつ……食わす気だ……!

上位チャット:これは賢いエルフ

上位チャット:で、そのターゲットはどこに?


「お兄ちゃーん、カメラ動かせそうー?」

「動いた」

「えっ、もう動いてるの?」

「ん」


上位チャット:キョーカちゃん! お顔見せて!

上位チャット:こっちおいでー怖くないよー、あまり

上位チャット:あまりw

上位チャット:この正直者め!


「キョーカ、呼ばれてるぞ」

「わっ、待って待って!」


上位チャット:来たーーーーーーーーーっておいw

上位チャット:またお面w

上位チャット:どっから持ってきた、そのお面w


「屋台」


上位チャット:あー、そのための

上位チャット:すべて、妹に食わせたい欲に従った行動だと思ってました

上位チャット:ごめんね、エルフさん


「要らないって言われた」

「お夕飯、食べれなくなっちゃうよ!」


上位チャット:それはそれでやってたw

上位チャット:お耳しょんぼりエルフ好き

上位チャット:わかる


「お菓子でお腹いっぱいにしていいぞ?」

「お兄ちゃんは、わたしにそれを禁止する立場だと思うよ……」

「てごわい」


上位チャット:エルフさんは何と戦ってるんですかねぇ?

上位チャット:キョーカちゃんの理性

上位チャット:草

上位チャット:でも、キョーカちゃんはもうちょっとお肉付けた方がいいですね


「ほら」

「わたしは三度のご飯で自然にお肉を付けるからいいんです」

「むう」


上位チャット:キョーカちゃんの理性、強い

上位チャット:ちっ! 今日のところはこの辺にしといてやる! 覚えてろ!

上位チャット:覚えてろ!

上位チャット:お前らも何と戦ってるんだw

上位チャット:世の中には、可愛い子にいっぱい食べさせたいやつがいるんだ!

上位チャット:ん? エルフさん、どしたの?


「ヒーローショーの役者がひとり遅れてるらしい」

「えっ? お兄ちゃん、いつ聞いたの?」

「エルフは耳いい」

「ええぇ……?」


上位チャット:音量目一杯まで上げて確認しようとしたら、俺の耳がぶっ壊れた

上位チャット:そりゃそうよ

上位チャット:解像度と違って、これはパッと確認できんわ

上位チャット:まあ、本当なんだろうけど


「……お兄ちゃん、役者さんの数は減らせないの?」

「そういう考えにも至ってないな。混乱の真っ最中だ」


 特設ステージの裏手から、状況の確認を焦っている声が聞こえる。

 人数は……女性ひとりに男性五人か。女性は進行役で、男性五人は役者なのだろう。

 ステージの周りに集まった親子連れも異変を感じてか徐々にざわつき出す。

 ふむ。

 ここにあるのは、カメラとマイクとノートパソコンとお面と水着と服と俺と、他人事だというのに心配そうにしている――キョーカ。


「キョーカ」

「何? お兄ちゃん」

「ちょっと時間を稼いでくれ」

「……えっ?」


上位チャット:何が始まるんだ?

上位チャット:多分、ヒーローショーだな

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