70.「お兄ちゃん」

「ただいま」

「お、おかえりなさい……」


上位チャット:まだ妹さん、警戒心あるなぁ

上位チャット:初回配信でいきなり自分の部屋の窓から外を撮影したエルフさんの妹とは思えない

上位チャット:事例が極端過ぎるw


「ふー。我が家はいいもんだ」

「う、うん……」

「さて、着替えるか」

「……」

「そんな顔しなくていいぞ」

「えっ?」


上位チャット:どんな顔したんだ?

上位チャット:映像くれー

上位チャット:カメラー復活しろー


「ほら、ちゃんと女物を買ってある」

「あ、本当だ……」

「だから、俺が偽物でも『キョーカの兄の偽物が兄の私物を勝手に使う』ことには、ならないぞ」

「うっ……本当に鋭いね」

「『キョーカの兄に女装癖がある』可能性は生まれたが」

「どんな可能性っ!?」


上位チャット:なんで、その注釈入れたw

上位チャット:鋭い洞察と鋭い弁舌、これぞエルフさんだな

上位チャット:どこ刺してんだ、その弁舌w


「んしょっと」

「わ、わーっ!? わたし、あっち行ってるね!」

「別にここでいいぞ」

「もうちょっと羞恥心を覚えて!」


上位チャット:映像くれぇええええ

上位チャット:カメラー復活しろぉおおおお

上位チャット:お前らも、もうちょっと羞恥心を覚えて


 着替えて人心地付く。

 今日の服はボーダーのシャツにハイウエストのスカート。腰の飾りリボンがちょっと可愛い。


「……スカート、穿くんだね」

「体に合わせたものを着ないと、大変だからな」

「え、何があったの?」

「服屋の店員に土下座された」

「本当に何があったの!?」


上位チャット:あれ、土下座沙汰だったのかよw

上位チャット:これまでのエルフさんコーデを見る限り、いい仕事してるよな

上位チャット:まあ、今日の服は見れないんですが

上位チャット:生殺しが過ぎる


「キョーカは腹減ってるか?」

「う、うん……ちょっと減った、かな?」

「じゃあ、うまいもの食わせてやる」

「えっ……手料理? いいの?」

「おう」


上位チャット:エルフ料理と聞いて

上位チャット:葉っぱと木の実とキノコでできてそう

上位チャット:精進料理かな?

上位チャット:お料理配信! お料理配信!


 チン!


上位チャット:今、すげー聞き慣れた不穏な音がしたぞ

上位チャット:奇遇だな、俺にも聞こえた

上位チャット:聞き覚えめっちゃある


「うまい」

「手料理は!?」

「ホテルのパンはちょっとバターが多い」

「聞いて!?」


上位チャット:ホテルメシ包んできたのかw

上位チャット:確かに、うまいものだけどさw

上位チャット:エルフさんにどこまでも振り回されていくキョーカちゃん


「シチューもあるぞ」

「うん……もう、いいよ……。食べてから考えるね……」

「違うシチューもあるぞ」

「ありがとう」

「こっちのシチューも食べろ」

「いくつあるの!?」


上位チャット:草

上位チャット:偏り過ぎィ

上位チャット:エルフさん、そんなシチュー好きだったのか


「俺はシチューよりカレーが好きだぞ」


上位チャット:あれぇ?

上位チャット:おいw

上位チャット:何なんだよ、そのシチューの群れはw


「キョーカがシチュー好きなんだ」

「……っ!」

「飲み物要るか? オレンジジュースあるぞ」

「……わたし、もう子供じゃないんだよ? シチューばっかり食べたりしないよ」


上位チャット:お

上位チャット:声が

上位チャット:落ち着いた?

上位チャット:そんな感じだね


「そうか」

「うん。そうだよ、お兄ちゃん」


 緊張の解けた優しい笑み。

 やはり、キョーカはいつもこうあってほしい。

 不出来な兄だが、俺はそう思うのだ。


「じゃあ、コーヒー要るか? ミルクも砂糖もあるぞ」

「お兄ちゃん、何をどれだけ持ってきたの?」

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