69.エルフ式中の人証明法

「聞こえてるかー? 聞こえてたら、『聞こえない』ってチャットしろー」


上位チャット:聞こえますん

上位チャット:聞こえますん

上位チャット:聞こえますん


「む。揃った」


 部屋に近くなったので車から降ろしてもらったところで、俺は配信を再開した。壊れたカメラは一回休み。

 一方で、服は連投。上は半袖のシャツ、下は青地のロングパンツというトレーニングウェアな装いのままだ。

 これもエルフだからなのか、ずっと車で話していたというのに、体はすこぶる快調だった。


上位チャット:アーカイブは履修済みです

上位チャット:初めて、エルフさんをやり込められたぜ!

上位チャット:この程度、余裕ですね

上位チャット:勝ったなガハハ

上位チャット:ところで、電話は?


「まだしてる」

『お兄ちゃん? 何の話?』

「ちょっと録音し始めただけだ」

『録音?』

「そろそろ部屋に着くからな」


上位チャット:うお、マジで一時間以上電話してたのか

上位チャット:うーん、やはり画面真っ暗

上位チャット:録音機扱いされるアーカイブくん

上位チャット:ここからどうするんだ?


「キョーカに部屋の前で待ってもらう」

『うん? 表に出ればいいの?』

「おう」


上位チャット:エルフさん、僕にキョーカちゃんをください!

上位チャット:名前を知った瞬間にw

上位チャット:それでそれで?


「電話したまま近付く」

『お兄ちゃん、誰かと話してるの?』

「チャット見てるだけだぞ」

『チャット?』

「細かい話は後だ」


 曲がり角からキョーカの姿が見える。

 薄く茶色に染めた髪。十代半ばの実年齢よりひとつふたつ幼く見える体つき。ロゴの入ったシャツにミニジーパン。その上から、足まで掛かる白いレースのカーティガンを羽織り、スマホを大事そうに両手で抱えていた。


「俺からはキョーカが見えたぞ。髪染めたんだな」

『えっ、本当? どこどこ?』

「今、下にいるぞ」

『下?』


 キョーカが顔を覗かせてきたので、軽く手を振ってやる。


「え?」

「しばらくぶり」

「え? え? え?」


上位チャット:正面から行ったァ!

上位チャット:行けるのか?


「お、お兄ちゃん……?」

「ん」

「え、え……? ドッキリ番組?」

「番組にこれだけ長時間、会話を真似られるやつが出てくるか?」


上位チャット:ああ……だから、ずっと話し続けたのか

上位チャット:なるほど、確かに

上位チャット:緊急の事故や事件を装ってオレオレ詐欺はできるけど、これだけ落ち着いてじっくり話すのは無理だ

上位チャット:こんな手があったのか


「……本当にお兄ちゃん?」

「おう」

「……どうして、女の子に?」

「エルフに入れ替えられた」

「……エルフ?」

「耳も髪も動くぞ。ほれ」

「なんで、髪が動くのっ!?」

「知らん」


上位チャット:エルフさんw

上位チャット:そうだよね、それツッコむよね

上位チャット:エルフに自信ニキ、実際、なんで動くの?

上位チャット:エルフロックという言葉ならある。ロック、つまり、髪の絡まりをエルフのいたずらによるものとした概念だ。


「ほー」

「……そのノートパソコンは?」

「配信用」

「配信?」

「エルフしてるからな」

「何がなんだか、まったくわかんないよっ!?」


上位チャット:草

上位チャット:身内でもわからないのかw

上位チャット:よかった、エルフさんは変な生き物なんだ

上位チャット:エルフさんが二人も三人もいたら困るしひとりもらうもんな

上位チャット:ちょっとここ願望が混ざってますね


「とりあえず、積もる話もあるし部屋に入れてくれ」

「う、うん……」

「不安か?」

「……正直、信じがたいよ」


上位チャット:そら、そうだよね

上位チャット:化かされてる気分だろうさ


「じゃあ、ぱんつだけ取りに戻らせてくれ」

「はい?」


上位チャット:は?

上位チャット:ぱ?


「いや、急に旅行に行ったから替えのぱんつ忘れてたんだ」

「わーっ!? こんなところで見せないでーっ!?」

「大丈夫だ、ちゃんと女だぞ」

「なおさらだよっ! 恥ずかしくないのっ!?」

「俺は男だぞ?」

「どっち!?」


上位チャット:どっちw

上位チャット:大草原不可避

上位チャット:都合のいいように性別を入れ替えるエルフ、これはファンタジーの香り

上位チャット:大分違う

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