68.「余ってたの全部吸った」

「簡単に経緯を説明するぞ」


上位チャット:また保温戦隊デンシジャー好きなエルフが出てくる流れか……!

上位チャット:俺も入れ替わりたいです!

上位チャット:入れ替わったらエルフさんみたいなことやりたい!

上位チャット:エルフになってもエルフれる気はしない

上位チャット:それは……確かに


「俺の部屋にいるって、妹からメールが来た」


上位チャット:ガタッ!

上位チャット:「お義兄ちゃん」呼びでお願いします!

上位チャット:気が早い

上位チャット:なら、お友達からでいいです!

上位チャット:こいつ、巧みに告白を成功させようと……!


「それで、俺は妹に会うために、ロケを切り上げて帰ることにした。でも、何もしないで会うと、俺がエルフで妹はびっくりする」

「あの、それはびっくりで済むんでしょうか……?」

「だから、電話する」


上位チャット:なる、ほど?

上位チャット:部屋に妹が来てるから帰る→わかる

上位チャット:エルフでびっくりさせないよう電話する→わからない

上位チャット:仮にエルフが設定じゃないなら、びっくり以前に信用できないよね?

上位チャット:兄の部屋に行ったら、兄を名乗るコスプレ少女が出てきたでござるの巻

上位チャット:うーん、通報案件


 俺がスマホから登録してある番号に電話を掛けると、三コールですぐに通じた。


「ごほんごほん!」

『はい、もしも……もしもし? お兄ちゃん?』

「おう」

『……お兄ちゃん?』

「なんだ?」

『声が変じゃない?』

「ヘリウムで遊びすぎた」


上位チャット:エルフさんwww

上位チャット:すっげぇ理由付けたぞ、このエルフw

上位チャット:そんなの通らんだろw


『ヘリウム?』

「パーティー用のやつだ。今、俺は友人と天然温泉レジャーホテル《湯けむり光線》に来てる」

『お、温泉? ホテル? 旅行中なの?』

「日帰り旅行だな。これから俺も帰るから、あとで動画を見せるぞ」

『えっ、本当っ? 嬉しいな』


上位チャット:お、おぉ……?

上位チャット:通った?

上位チャット:話が弾んできた


『温泉もあるホテルなんだよね? お兄ちゃん、入ったの?』

「おう」

『いいなー! どんなだったの? どんなだったの?』

「くさい」


上位チャット:おいw

上位チャット:※スポンサーが付いてます

上位チャット:硫黄泉だからしかたないでしょw


『ふんふん。お料理、美味しかった?』

「うまかった」

『いいなー、いいなー! レジャーってどんなのがあるの?』

「スケスケ肉じゅばん玉転がしは面白かった」

『うん? すけ……何?』


上位チャット:※エルフさん命名

上位チャット:正式名は誰も覚えてない

上位チャット:草

上位チャット:それにしても、事情話したりしないんだな

上位チャット:この後、どうすんだろ?


「部屋に戻るまで電話を続けていいか?」

『うん。わたしは歓迎だけど、いいの?』

「車に乗せてもらうから問題ない」

『そっか! じゃあ、いっぱい話そうね、お兄ちゃん!』

「おう」


上位チャット:え、何分間、喋る気なんだ?

上位チャット:ん? ホワイトボード?

上位チャット:何書いてんの?

上位チャット:喋りながらとは器用な


 俺は書き終えたホワイトボードをカメラに向ける。

 書いた文字は『カメラはミソラのスタッフのものだから、配信はおしまい』。以上。


「車来た」



   ――この配信は終了しました――



上位チャット:あー……

上位チャット:切り方ぁ……

上位チャット:借り物だからしかたないね

上位チャット:本当のことは話してないけど、さり気なく『日帰り旅行』って言ってたね

上位チャット:優しさが垣間見えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る