64.木の上のエルフさん

 同点のゴールを決めた配信者チーム。ミソラは、興奮した様子で俺の前に立った。


「エルフさん、勝負ですよっ!」

「おう!」


上位チャット:逆神様楽しそう

上位チャット:エルフさんも楽しそう

上位チャット:どちらも楽しそうで大変よろしい

上位チャット:お、スローインはエルフさんがやるのか

上位チャット:大丈夫? やり方わかる?


「覚えた」


上位チャット:そっか、なら安心だな

上位チャット:……ん?

上位チャット:どうした?

上位チャット:「覚えた」って、いつ覚えたんだ?

上位チャット:え?


「えい」

「おぶっ!?」


上位チャット:れ、レッドー!?

上位チャット:レッドが無駄にやられた!

上位チャット:違うの、エルフさん! 別にスローインはレッドに当てるものじゃないの!

上位チャット:草ァ!


 レッドに当たって跳ね返ってきたボールを取って、手で地面にバウンドさせ続ける。ドリブルというやつだ。


「エルフさん、ボールちょうだいしますっ!」

「む」

「惜しいっ!」


上位チャット:自分で言ったw

上位チャット:逆神様がエルフさんのマークに付いたか

上位チャット:さっきとは逆の構図だな

上位チャット:さあ、エルフさんはどうする?


 マークから逃れるには、木を使うんだったな。

 すぐそばの木……は、今のミソラだと取られるかもしれない。一本、奥にある木を狙って――


「えい「ふっ!」」


上位チャット:!

上位チャット:早い!

上位チャット:エルフさんが投げ終えるより先に、逆神様動き出したぞ!

上位チャット:なんで、投げる方向がわかったんだ!?


 ミソラに先を行かれたが、足の速さはこちらの方が上だった。ギリギリのところで、俺はボールを維持できた。


「くぅーっ! 惜しいっ!」

「びっくりした。ミソラ、なんでわかったんだ?」

「視線ですよ、エルフさんっ! 後ろだからって、隠さずにじっと見てたらバレバレですっ!」


上位チャット:すげー

上位チャット:ええ……逆神様ってこんなスポーツガチ勢だったの?

上位チャット:団員も知らないです


 困ったな。ミソラの猿真似じゃ、長くは持たなそうだ。

 それなら四天王にパスをするか?


「ちびっ子よ! 我にボールを回すがいい!」

「んー」


 ないな。


「レッドに出すとミソラに取られる」

「そんなことないですよー。私が頑張っても間に合わないかもですしー」


上位チャット:めっちゃいい笑顔で何言ってんだw

上位チャット:絶対に奪い取れるという自信が見えるw


 右がダメなら――左へ!


「甘いですよっ!」

「うお」


上位チャット:はたき落とした!

上位チャット:いや、違う

上位チャット:指先に当たっただけだ

上位チャット:惜しい!


 右もダメ、左もダメ。前はもちろん、ミソラがいるからダメ。

 じゃあ、空いてる場所は?


「……エルフさん? どこを狙ってるんですか?」

「俺のゴール」

「えっ?」

「えいや」


上位チャット:うわぁああああああああああ

上位チャット:ちょおおおおおおおおおおおおおおお

上位チャット:おい待てエルフぅ!

上位チャット:マジで投げた!

上位チャット:何してんのエルフさん!?

上位チャット:自分のゴールにボールぶん投げるやつがあるかぁ!


 俺が勢いよく投げたボールは、自軍ゴールの板に強く当たって跳ね返る。

 誰もいない場所に落ちるボール。狙い通り。

 これを取るのは、一番足が速い俺だ――






「おわっ?」






上位チャット:靴脱げた

上位チャット:嘘やろ

上位チャット:そういや、男物の靴を二重靴下で無理矢理履いてたんだっけか

上位チャット:あ、あー


「もらいましたっ!」

「させんっ!」


 ボールを取ったのはミソラ。

 しかし、レッドが素早く動いてシュートコースを潰す。


「ミソラ、パスを!」

「リクくん、お願いっ!」


 ここが勝負所と見たのか、自陣の守りを捨てて、ミソラのスタッフがゴール前へと急接近する。

 レッド以外の四天王も集まり、ミソラたちにプレッシャーを掛ける。が、


「ジャアアアイァアアアントキリィイイイングゥ!」


上位チャット:来た!

上位チャット:行った行った行った!

上位チャット:行けぇえええええええええええ


 完全に崩れた体勢からミソラが放ったボールは、長い長い放物線を描いた。

 受け身すら取れずに、地べたに背を付けて、それでもミソラはリングへと吸い込まれていくボールを目で追い掛ける。

 そのボールを俺は、


「えい」


上位チャット:はぁああああああああ?

上位チャット:えええええええええええええ

上位チャット:ちょっと待ってぇ!?

上位チャット:上から来た……?

上位チャット:上

上位チャット:上だった

上位チャット:上でしたね

上位チャット:エルフさん、どこから出てきたの?


「シュートするのを待って、ゴール前の木から飛び降りただけだぞ」


 木を伝って移動すれば、誰にも気付かれない。

 上を取ってしまえば、後は簡単だった。


上位チャット:またエルフしてる

上位チャット:なんで、空中で止めようと思ったのか

上位チャット:でも、ノーマークだったから正解なのか……?

上位チャット:いやいや、危ないでしょ!

上位チャット:ちゃんと危ないことは危ないって教えないと!

上位チャット:……ん?

上位チャット:あれ? こんなこと、前にも言ったような……?


「ん?」

「エルフさん、こちらをご覧ください」


 ミソラのスタッフが差し出したホワイトボード。そこには、こうあった。



『もう三メートル以上の高さから飛び降りません。手すりでの滑走も含みます』



「あっ」


上位チャット:ダウト

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