62.五人目

 蹂躙と呼ぶより他はなかった。


「後半戦、やるか?」

「……いや、我らはギブアップさせてもらいたい」


上位チャット:まあ、しかたないでしょ

上位チャット:これじゃあねぇ……

上位チャット:無理だし


 前半戦のたった十分間でエルフが稼ぎ出した点数は一七。もちろん、一点も与えていない。

 すでに勝負は決しており、チャットにも続きを望む声はほとんどなかった。


「なら、日が暮れる前にもうひとつは違うゲームができるな」

「う、うむ。準備しよう」


上位チャット:レッド、気圧されてるなぁ

上位チャット:四天王が割と善戦してたから気付かなかったけど、エルフさんってこんな強かったんだな……

上位チャット:ゲームと能力が噛み合ったときのエルフさんはやばいよ

上位チャット:ほら、音ゲーでランキングを壊してたじゃん

上位チャット:あー

上位チャット:エルフさんは、勝ち方が奇抜じゃない方がひどいことになる


 慌ただしく動くレッドたちには視線も向けず、ミソラは悩んでいた。


「巨人って、どういう意味だったんでしょう……?」


 マイペースなエルフの言葉だから大した意味はなかったのではないかと思う一方で、ブラインドサッカーの勝ち方を『らしくない』と感じるミソラがいた。


「どう『らしくない』のかは、私にもわからないんですが……ううーん……」

「ミソラ、準備ができたそうなので、僕たちも移動しますよ?」

「あ、うん。リクくん、わかった」


 モヤモヤとしたものを抱えながらも、ミソラは頭を切り替えた。


        ◇◆◇


「ワーッハハハ! 次のアクティビティは《ファイナルバスケットボールフォレスト》だ!」

「僕から説明を補足します。ルールはとてもシンプルです。配信者チームと四天王チームでのバスケットボール。ただし、木もコートの一部と見なします」


上位チャット:はー、森をコートにするとはアホなこと考えたなぁw

上位チャット:整地してるし木にクッション巻いてるから、あくまでも雰囲気だけだね

上位チャット:ドリブルするし走り回るから、その程度になるか

上位チャット:冷めたこと言ってるけど、やりたくないの?

上位チャット:それとこれとは話が別!

上位チャット:やってから考える!

上位チャット:やらせろォ!


「ん」

「どうかしましたか、エルフさん?」

「時間制限やめよう。二ゴール先取にしてくれ」


上位チャット:エルフさんがルールに口挟むの珍しいな

上位チャット:初めてじゃない?

上位チャット:まあ、ブラインドサッカーと同じ流れになっても困るし

上位チャット:俺は二ゴール先取でいいわ

上位チャット:エルフ賛成

上位チャット:同意


 チャットの反応を見て、リクは決める。


「エルフさんの提案通りに進めていいですか?」

「我らもそれで構わん!」

「では、二ゴール先取とします。準備が出来次第、配信者チームのボールで開始します」


 リクの宣言を受けて、各々がコートの具合や木の位置を確かめ始める。

 日は大分傾いているが、夕焼けにはまだもう少し。

 ミソラは、ほとんど動けなかったブラインドサッカーの間に固まった体を軽くほぐしていた。


「ミソラ」

「あ、エルフさん。何か御用ですか?」

「シュート見せてくれ」


上位チャット:そう来たかw

上位チャット:試合が始まる前に勝負は始まっているのだ

上位チャット:始まるどころか終わりそうだぞ


「ああ、覚えるんですね。わかりました」

「頼む」


 センターラインからは少々先、スリーポイントラインよりは前の位置で、ミソラはシュートを実演してみせる。

 ボールは一度で、すんなりとリングをくぐった。


「覚えた」

「よかったです。でも、どうして、私に聞いたんですか?」

「ミソラは経験者だろ?」

「あ、はい。部活でバスケをやってました」


上位チャット:そうなの?

上位チャット:いや、知らん

上位チャット:団長の公式プロフィールにはない

上位チャット:なんでわかったの?


「スケスケ肉じゅばん玉転がしのとき、ミソラは敵をマークするのに慣れた様子だった。サッカーかとも思ったけど、ブラインドサッカーでは足元のボールに不慣れだった。なら、バスケの経験者だろう」


上位チャット:そういや、マンマークってそこそこ難しかったわ

上位チャット:マンマークできるなら、ほぼバスケかサッカーの二択かぁ

上位チャット:言われてみれば、確かに

上位チャット:またエルフさんが謎洞察力を発揮してる


「はー……。エルフさん、よく見てるんですねぇ……」

「だから、俺はそろそろミソラと遊びたい」

「えっ?」

「エルフさーん、ミソラー! 試合を始めますよー」

「あ、はーい!」


 リクへの返事のために、ミソラは一瞬エルフから視線を切った。

 視線を戻したときには、もうエルフはコート中央へと歩き始めていた。

 結局、ミソラは疑問を聞き直すのを後回しにして、試合を開始させることにした。

 あるいは、このタイミングで聞いていたのなら、流れは変わったのかもしれない。


        ◇◆◇


 試合開始直後。エルフがほぼセンターライン上から放ったシュートは、見事に――を通過した。


「ミソラ」

「え、エルフさん……どうして……?」

「四天王に五人目がいてもいいだろ」


上位チャット:いや、それはどうかと

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