59.全権委任されたエルフさん

「ううぅ……早く上がって早く上がってぇ」

「慌てても変わらないぞ」


 ミソラは、俺よりひとつ上の段で、右へ左へと忙しない。

 一周目を滑り終えた俺たちは、頂上へ向かうエスカレーターに乗っていた。


上位チャット:そわそわ逆神様、可愛い

上位チャット:荷台でいい子にしてるエルフさんも可愛い

上位チャット:あーあー、枝に手を伸ばさないの

上位チャット:可愛いけど、一般に配信者に求める可愛さと少し違う気がする

上位チャット:それな


「ワーッハハハ! ちびっ子たちよ、我らは一足先に二周目に入る……が! 残念なことに、ちびっ子たちの逆転はない!」


 見れば、頂上でレッドが、ピンクを乗せたカートを前にポーズを取っていた。


「そうなのか?」


上位チャット:いや、俺らに聞かれても

上位チャット:そこまで大差ではないと思うんだけど

上位チャット:滑り終えた時点で、レッドたちの背中見えたもんな

上位チャット:その程度の差で、これだけ大言壮語を吐くってことは……


「ワーッハハハ! 実は、今までちびっ子たちが滑っていたコースにはショートカットがたくさんあるのだ! 見せてやろう! 行くぞ、ピンク!」

「ヤーッ!」


 言うや否や、レッドはカートを走らせ始める。向かう先は最初のコーナー――の少し手前の段差。


「飛んだ」


上位チャット:おー

上位チャット:カートを浮かせて、上手に乗り越えた

上位チャット:ガバガバ策謀からの華麗な着地で評価に困るレッド


「ワーッハハハ! それでは、ちびっ子たちよ! 我らはゴールで待っているからゆっくり来るがいいぞ!」


 ようやく頂上にたどり着いた俺たちを尻目に、レッドたちはコースをカットしながらどんどん降りていく。このままであれば、二分と掛からず決着してしまうだろう。


「ど、どどど、どうしましょう、エルフさんっ!?」

「任せろ」

「はいっ!」


上位チャット:いやー……任せていいのかなぁ?

上位チャット:なぜ、そこでノータイムで頷いちゃうのか

上位チャット:団長は変なところで思い切りがいいのである!

上位チャット:でも、どうすんの?


「まず、ミソラを乗せる」

「乗りました!」

「所定の位置にカートを進める」

「どこに行くんですか?」

「こっち」

「こっち……は、コースじゃないですよ?」


上位チャット:エルフさん、どこ行くの?

上位チャット:そっちには階段しかないですよ


「違う」

「え?」

「手すりがある」


上位チャット:……え?

上位チャット:はい?

上位チャット:え、え、え?

上位チャット:待ってエルフさんそれは待って

上位チャット:エルフさん、これはスケボーじゃないです


「あの、エルフさん、右ですよ? コースは右」

「少し助走を付けて」

「いや、ですから、右。右です。右」

「いっせーのーせーで」

「右、右、みぎ、みぎっ。みぎっ! みぎみぎっ! みぎーっ!」

「とう」

「ミギぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」


上位チャット:うわぁああああああああああああ

上位チャット:ぎゃああああああああああああああああ

上位チャット:ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

上位チャット:本当に、階段の手すりにカート飛び乗せたぁあああああああああ

上位チャット:なんてことすんだ、このエルフw


「ひっきゃあああああああああああああああああああっ!?」

「速い」

「速いなんてもんじゃないですようっ!?」

「継ぎ目あるから飛ぶぞ」

「ひょけっ!?」


上位チャット:ひょけw

上位チャット:どっから声出してんの、逆神様w


「落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるぅうううううううううっ!?」

「滑ってるだけだぞ」

「ば、ば、ば、バランス崩したらどうするんですかっ!?」

「階段の脇はネット張られてる」


上位チャット:あ、なーんだ

上位チャット:じゃあ、安心だぁ

上位チャット:ってなるかーい!

上位チャット:階段側にバランス崩したら?


「枝に手が届く」

「安全管理ぃいいいいいいいいいいいいい!?」


上位チャット:どんな悲鳴上げてんだw

上位チャット:画面が完璧にジェットコースターのそれなのに、何ひとつ慌てないエルフさんよ


「継ぎ目避けるぞー」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわ」

「ほい」

「――っはぁ! こわいこわいこわいこわいこわい!」


上位チャット:ジャンプしてから着地するまでの間、息止まるの草

上位チャット:ほぼほぼ放送事故なのに、まったくそうと感じさせないエルフさんよ

上位チャット:このまま、何事もなくゴールを駆け抜けるんだろうなぁ

上位チャット:団員だけど、団長の悲鳴を楽しむ余裕が出てきた

上位チャット:なんてやつらだ(麦茶美味しいです)

上位チャット:俺たちは手に汗握って見守ってるってのに(だから、クーラーけました)


        ◇◆◇


「勝った」


上位チャット:おめでとうございます

上位チャット:ぱちぱちぱちぱち

上位チャット:後ろで完全に腰が抜けてる逆神様について一言お願いします


「トイレまで連れてく?」

「お、お願い、しま、す……」

「カートに乗せる」

「あっあっあっ」


上位チャット:抵抗が弱々しいw

上位チャット:ショートカットせずにゆっくり連れてってあげてねー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る