39.足りない尊み
この大きな館には寝室が三つある。
ひとつは別館に。二段ベッドが複数備えられた大部屋で、化粧台や机やロッカーもあった。おそらくは使用人の部屋だろう。
ひとつは本館に。豪華で大きなベッドが備えられた部屋で、隣室には衣装部屋もあった。おそらくは館の主人夫妻の寝室だろう。
ひとつは同じく本館に。仕立てのいいベッドが備えられた部屋で、机や本棚もあった。おそらくは館の主人の子供部屋兼寝室だろう。
そして、俺たちが寝ていたのは子供部屋だ。
「んー……。本棚に妙な本はないな」
「どういう本が並んでるの?」
「幼い子供向けの絵本や図鑑だ」
上位チャット:へー、そういう本だったんだ
上位チャット:知らなかったわ
上位チャット:プレイしてる連中も知らんかったのか
上位チャット:いやー、日本語訳されてない小物まで調べるのはちょっと……
上位チャット:正直、面倒くさかった
「じゃあ、関係なさそうね」
「ああ、『おぞましき召喚術とぼく』も『おとなの欲望がもたらす楽しい生贄ごはん』も『神経毒植物図鑑』も『食べられないキノコたち』もただの本だろ」
「絶対、関係あるわよ!」
上位チャット:このエルフである
上位チャット:えげつねぇタイトルw
上位チャット:わかりやすいタイトルじゃない分だけ悪意を感じるわ
「本当にただの本だぞ?」
「あっ……本棚から取り出すこともできないタイプのオブジェクトね」
上位チャット:アイテムではないってことか
上位チャット:ただの雰囲気作りの背景?
上位チャット:だろうね
「机にあるのは……
「エルフ、持ち出せるのなら持っていきましょう」
「わかった」
上位チャット:さて、残るは……
上位チャット:ベッドだな
「お」
「ムービーが始まったわ。やっぱり、キーアイテムだったのね」
『硬い……。中に何か入っているのか?』
青年は
『十字架? なぜ、こんなところに』
『ヒヒヒ……』
『誰だっ!』
不気味な笑い声に青年は拳銃を向けるが、ドアが風に揺れるだけだった。
ムービーが終わると、ベッドには枕の代わりに十字架が鎮座していた。
「十字架も持っていくのか?」
「そうね。きっと、何かのキーアイテムよ」
「どんな?」
「例えば、これを持っていると黒い影が逃げていくとか」
「よし!」
「ちょっ!?」
上位チャット:突撃したw
上位チャット:エルフさんの突撃癖は何なのw
上位チャット:あ、殴られた
上位チャット:倒した
上位チャット:ワンダメージ食ったら、一秒で二発撃ち込んで即消滅させるの本当に笑う
上位チャット:エルフ「お前はもう用済みだ」
「効かない」
「もうちょっと話を聞いてから動きなさいよ!」
上位チャット:全視聴者が思ってることを代弁するキリシたん助かる
上位チャット:助かる
上位チャット:助かってる
上位チャット:俺たちに足りないのは、尊みではなくツッコミだったんだって改めて思う
上位チャット:ほんそれ
上位チャット:※女性配信者ホラゲ実況コラボで得られた感想です
「ホラゲ?」
「さあ、エルフ! わからないこと考えても仕方ないし! 工具集め再開しましょうか!」
「おう」
上位チャット:まだ諦めてないキリシたん
上位チャット:いやー、さすがに無理じゃないですかねー?
上位チャット:見える……キリシたんが悲鳴を上げてエルフさんに抱きついちゃう姿が見える……! 見えちゃう……っ!
上位チャット:焼き増しお願いできますか?
上位チャット:ちょっと無理……っ!
「替えのバッテリー発見――おっと」
上位チャット:うーん、真横から飛び出してきても一瞬で終わりかぁ
上位チャット:人影くん、もっと頑張ろう?
「人影、倒しちゃいけないのか?」
上位チャット:いや、そういうわけじゃないけど
上位チャット:機械的に処理されるとですね
上位チャット:そうそう
「んー? お前ら、たまに要領得ないな」
上位チャット:えーと、これって本来は暗闇から無限湧きしてくる敵にビクビクするゲームなんですよ
上位チャット:でも、エルフさんが悪・即・二連射! してるせいで驚くほど心拍数に変化がないんです
上位チャット:だから、山場が欲しいなぁって……
「発見しても一秒待つか?」
上位チャット:そういうのも何か違う気がする
上位チャット:だよな
上位チャット:あ、キリシたんが操作すればいいのでは?
「……代わるか?」
「いや、そんな顔しないでよ。取らないわよ」
「……ずっと俺がプレイしてたし、遠慮しなくていいんだぞ?」
「遠慮してないから。たくさんプレイなさい」
「そうか!」
上位チャット:子供か!
上位チャット:エルフさんのピュアさがやばい
上位チャット:しょんぼりしても、代わるかちゃんと聞けて、えらいと思いました
上位チャット:子供か!
が
「キリシたん、いいやつだな!」
上位チャット:尊い……
上位チャット:尊いけど、これ絶対、女性配信者ホラゲ実況コラボに足りなかった尊みと違う……
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