37.明かりの下、暗がりの下

「気のせいか」


 フローリングの床に、キンと薬莢が落ちる音がした。

 しかし、倒れる人の姿はない。寝室にほど近い部屋。肖像画の男性は顔色を変えることなく俺の方を見つめていた。


「『気のせいか』じゃないわよ! こっちがびっくりしたじゃないの!」

「こっちが?」

「なんで急に撃つのよ!」


上位チャット:微妙に鋭いエルフさんリターンズ

上位チャット:聞いてないようで時々ちゃんと話を聞いててえらい

上位チャット:えらいかな?

上位チャット:いつも聞いててどうぞ


「気配を感じた」

「……物音でもしたの?」

「何もなかったから、気のせいだろ」


上位チャット:気配って……

上位チャット:魔力とか感じようよ!

上位チャット:エルフさん、エルフでしょう!

上位チャット:エルフ魔法「失明させる」

上位チャット:そういや、そんな物騒なやつだった

上位チャット:感じないで

上位チャット:でも、本当に気のせいじゃないかな。まだ寝室で寝てすらいないんだし


「そうね。オープニングの一部みたいなものだし」

「ん」


 寝室に入り、ベッドを調べると、休むかどうかの確認をされた。もちろん休む。


『今日は散々だったな。こんなことなら、素直に街道沿いに進むべきだった』


上位チャット:山道を行くつもりじゃなかったんだな

上位チャット:近道失敗はあるある

上位チャット:一駅歩いちゃうのあるある

上位チャット:捜索隊組まれちゃうのあるある

上位チャット:ないです


『家主もいないようだし、明日は工具を探して車を直すとしよう。やれやれ……早く家に帰りたいもんだ』


 ぼやいた青年は目を閉じると、すぐに寝息を立て始めた。

 誰もいないはずの部屋で、カーテンが風に煽られて、はためく。すると、月明かりに照らされて黒い人影が浮かび上がる。

 カーテンが元の位置に戻ると、人影は姿を消す。見えていた時間は一秒にも満たなかった。


「おー?」

「……意味深ね!」


上位チャット:ちょっと考えたけど誤魔化すの諦めたキリシたんに草

上位チャット:まあ、これはねw

上位チャット:ゲームシステムの紹介でもあるからしゃーない


「起きた」


 青年が目を覚ますと、すでに辺りは薄暗い。


『おいおい、もう夕方じゃないか。くそっ、とっとと工具を集めないと出発が明後日になっちまうぞ!』


 手持ちのカロリーバーをかじりながら、青年は立ち上がった……と、ここで操作が戻る。


「探索するぞ」

「エルフ、待った。一度、電気を点けて回りましょ。暗くなると何も探せなくなるわ」

「ん」


上位チャット:通じ合う二人

上位チャット:手と手を取り合い

上位チャット:初めての共同作業です

上位チャット:定番だなぁ

上位チャット:こうして生まれたのがケーキ太郎です

上位チャット:定番じゃなかった


「レンチ発見」


上位チャット:キッチンにあるレンチという違和感

上位チャット:ランダム配置だからw


「エルフ、ここに見えるのってペンチじゃない?」

「残り三つだな」


上位チャット:順調だね

上位チャット:そろそろか

上位チャット:ですね


「ん?」

「エルフ、この部屋も電気点けたわよね?」

「点けた」


 その部屋は真っ暗になっていた。

 手持ちの懐中電灯で照らしたところ、電灯が割れている様子はなかった。だが、


「ダメだな。スイッチが入らない」

「他の部屋はどうなの?」

「回ってみる」


 館のあちこちの部屋の電気が落ちていた。また、消えかけの部屋もいくつもあり、その数は増加中だとわかった。


「どんどん行動できる範囲が狭くなるのか」

「そのようね……どうするの? もう寝室に引き上げる?」

「んー……そうするしか――シッ!」

「きゃっ!?」


上位チャット:うぉ!?

上位チャット:撃った!

上位チャット:またいきなり

上位チャット:悲鳴いただきました

上位チャット:信仰が報われました

上位チャット:ありがたやありがたや

上位チャット:子羊どもw


「今度は見えたぞ! 隣室の明かりの下に出てきた黒い人影。こいつが敵だな?」

「あー……そうでしょうね。そうでしょうよ!」


上位チャット:【速報】キリシたん、やさぐれる【子羊のせい】

上位チャット:結局、エルフさんより先にキリシたんが悲鳴を上げたのね

上位チャット:解釈一致してるからよし!


「追撃だー!」

「ええもう、やっちゃいなさい、エルフ!」

「おう!」


 隣室に飛び込み、人影を撃ち落としたソファの後ろに俺は銃を向けた。


「えっ……?」


 そこには暗がりがあるばかりで、人影は消えてなくなっていた。

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