36.逃れようとするものたち

「インストール完了! やっていくぞ!」

「エルフー、雨が強くなってきたから電気消すわねー」

「おう!」


上位チャット:自然な流れで部屋を暗くしていくキリシたん

上位チャット:自然とは

上位チャット:エルフさんがガバガバなだけでは?

上位チャット:本当にゲームしか目に入ってませんねぇ


「オープニングムービーもあるのか」

「インディーゲームだと割と珍しいわね」


 ゲームの開始と同時にムービーが始まる。

 夕暮れの山道、主人公だろう青年の運転していた車が故障してしまう。青年は明かりを頼りに草木をかき分けて、近くにあった洋館へと駆け込む。


『Anybody home?』


 青年は繰り返しドアノッカーを叩くが反応はない。どうするのか……。


「う、日本語訳、ないのね……」

「訳すか?」

「お願いしていい?」

「おう」


上位チャット:さらっと言ったな

上位チャット:英語つよつよエルフ?

上位チャット:いや、英語圏日本語つよつよエルフの可能性もある

上位チャット:エルフさんが日本人過ぎて、外人なことしょっちゅう忘れるわー


「日本人だぞ」


上位チャット:お約束は大事だから

上位チャット:そうそう


 洋館を諦めて、よそに行こうと振り返る青年。すると、背後で物音がある。見れば、不思議とドアが開いていた。


『誰かいるのか?』


 しかし、青年の呼びかけに反応はない。


『済まない。車が故障したんだ。電話か修理のための工具を貸してもらえないだろうか?』


 青年が玄関をくぐると、ドアは無音のまま閉じていった……。

 と、ここでムービーが終わって、操作可能になった。プレイキャラはやはり青年のようだ。


「ふむ」

「エルフ、なんて書いてあるの?」

「人がいないか館の中の探索し、それが終わったらベッドで寝るよう指示されてる」


上位チャット:二回目以降は探索を省くための措置か

上位チャット:だろうな


 俺たちは指示に従って、館内を調べ始めた。


「エルフ、この戸棚、開けられない?」

「んー。ダメだな」


上位チャット:何もアイテム、手に入れられないな

上位チャット:家の中のもの勝手に取って許されるのは勇者だけだから

上位チャット:マップの把握はしていいけど、準備はしちゃいけない、と

上位チャット:寝てからが本番ってわけね


 金持ちの別荘なのか、この洋館は非常に広い。三階建ての本館に加えて、渡り廊下でつながった別館が東西北それぞれにある。部屋数も多く、本館別館合わせると三〇を超えていた。

 その一方で、館から出られる場所は異様に少ない。玄関を除いては、本館と別館に囲まれた中庭があるのみだ。

 他に特徴的なのは、廊下がほとんどないこと。部屋と部屋とがつながっているため、大広間からでも直接アクセスできる部屋の数が少なかった。


「なんだか、ダンジョンっぽい部屋配置ね」

「そうなのか?」

「エルフはRPGあまりやらないの?」

「やったことない」


上位チャット:未プレイか

上位チャット:エルフといえばRPGなのにな

上位チャット:RPGは名作多いよ、エルフさん!


「今度やる!」

「RPGもいいけれど、アクションもいいわよ」

「アクションは俺も知ってるぞ。ジャンプするやつ!」


上位チャット:ドヤ顔尊い

上位チャット:このエルフ可愛い

上位チャット:優しい気持ちになれる

上位チャット:この気持ちは何なんだろうな

上位チャット:子供が上手にできたことを報告しに来てくれた時の気持ち

上位チャット:それだ!

上位チャット:エルフさん、アクションはジャンプアクション以外もあるよ


「そうなのか」

「ジャンプアクションが主流ではあるけれど、見下ろし型の2Dアクションゲームも有名作がいくつもあるわね」


上位チャット:相手を爆殺するゲームとか謎解きして塔を登るゲームとか?

上位チャット:アクションRPGの類もジャンプないもの多いね


「一通り、巡り終えたな」

「そうね。工具がしまってありそうな場所にも目星が付いたし、そろそろ寝ましょうか」

「ん」


上位チャット:エルフさんを寝室に誘うキリシたん

上位チャット:これはえっちですよ!

上位チャット:あー、これはいけませんよ

上位チャット:キリシたん、えっち罪で逮捕されちゃいますよ!


「エルフの視聴者はまったくもう……」


上位チャット:エルフの視聴者です

上位チャット:子羊じゃないです

上位チャット:子羊は敬虔な信徒です

上位チャット:結構紛れてるぞ、これw

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