32.連れてきた

「そろそろいいかー?」

「ええ、伝えたいことは伝えたわ」

「そうか」


 壁とのお見合いから解放された俺は、キリシたんが待つパソコンデスクの前に並んで腰掛ける。

 俺のノートパソコンのモニタはいつも通りの配信の様子が映っている。違いといえば、キャプチャーするゲーム画面が中央に大きく居座り、俺とキリシたんがそれぞれ隅のワイプ画面に追いやられていることくらいか。

 一方の、キリシたん所有のデスクトップパソコンのモニタは二枚もある。配信とアバター操作のために起動しているいくつかのアプリを横手のモニタに、ゲーム画面を正面のモニタに表示している。便利そうだ。


「二枚モニタいいな。俺もモニタ買おうかな?」

「いいんじゃない? 便利よ」

「ノートパソコンでも動くのか?」

「……あんた、めちゃくちゃ高性能なゲーミングノート使ってるのに、知識ないの?」


上位チャット:そんなに高性能なの?

上位チャット:さくさく動いてる印象はあったけど


「中身見ないと詳細はわからないけど、多分、ハイエンドよ。どういう基準で選んだの?」

「店員に『ゲーム配信するから、一番いいのくれ』って言った」


上位チャット:本当に一番いいの選ばれたのか

上位チャット:ボったくられた?

上位チャット:注文の仕方が注文の仕方だけに、ボられたとも言いにくい……


「大学で使うパソコン代は出してくれると言っていたから、遠慮しなかった」


上位チャット:あ、これ、教育系の闇の一部だ

上位チャット:話題変更! 話題変更を求めます!


「そうね、変えましょ!」

「別に闇ではないと思うぞ」

「うん、そうね。闇ではないのね。わかったわ。わかったから変えましょうか」


上位チャット:信じてないやーつ

上位チャット:エルフさんがスペックの高さを示せば示すほど、「親だったら英才教育したくなるわ」って納得が襲ってくるんだもんw

上位チャット:それな

上位チャット:スーパーで出会った後どうなったの?


「キリシたんはカサ持ってたから、それに入れてもらった」


上位チャット:相合い傘!

上位チャット:見過ごしてた百合の気配


「近くだったから、そのままキリシたん家にお邪魔した」


上位チャット:連  れ  込  ん  だ  !

上位チャット:なんてことだ、エルフさんが美味しくいただかれてしまう! ありがとうございます!

上位チャット:ありがとうございます! ありがとうございます!

上位チャット:さすがキリシたん!


「違ぁう! エルフが濡れてたからタオル貸しただけよ!」

「それだけじゃなかったぞ」


上位チャット:え

上位チャット:え

上位チャット:えっ

上位チャット:……キリシたん?


「ドライヤーも貸してもらった」


上位チャット:空気が凍ったわ!

上位チャット:エルフぅ!

上位チャット:くっそビビったわw

上位チャット:いけない妄想に走ったことを懺悔します

上位チャット:草


「その後は、キリシたんに昼食をごちそうになって、雨が本降りになってきたから配信することにした」

「エルフ、あんたね……」

「違ったか?」

「……素だろうから、もういいわ。ゲームを始めて行きましょ」

「おう!」


上位チャット:輝く笑顔

上位チャット:エルフさんは純真だなぁ

上位チャット:何をプレイするの?


「まずはこれ。《ワイヤー・コネクション》よ」

「どんなゲームなんだ?」

「いわゆる『水道管ゲーム』の派生のひとつね。プレイヤーは電力会社の経営者となって、他のプレイヤーよりも多くの都市に電力を供給するのが目的となるわ」

「ふむ」

「自社の発電所と都市を他プレイヤーに先んじて電線で結ぶと、その都市に電力を供給してることになるの。電線は手札に毎ターンランダムに配られる様々な形の『電線カード』を用いる。『電線カード』を交差できる『電線カード』は少ないから、他プレイヤーの妨害を目的に『電線カード』を敷設する戦略もあるでしょうね」

「わかった」


上位チャット:割と単純なルールだな

上位チャット:・先んじて都市と電線を結べ

上位チャット:・電線は手札に毎ターンランダムに配られる

上位チャット:・敵電線を交差できる電線は少ない

上位チャット:まとめ乙


「あたしとエルフ連合対最高難易度コンピュータ四人。今回は協力プレイだから、頼りにしてるわよ」

「任せろ!」


上位チャット:え、さらっと決めたけどめっちゃ厳しくない?

上位チャット:……手数半分で勝てるものなの?

上位チャット:無理。このゲームやり込んでるプロの俺から言わせてもらうと無謀。最高難易度コンピュータは賢いから、こんなやり方で勝てるわけがない

上位チャット:なぜ、人はフラグを建設してしまうのか

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