30.エルフ推し

 キリシたんは、青のボーダーが入ったシャツにデニムパンツ、ダンボールのお面という出で立ちだった。


「ん……何よ? あたし、変な格好してる?」

「ワンポイントの主張が強い」

「あんたが着けたんでしょうが!」


上位チャット:草

上位チャット:客も店員も二度見するキリシたん

上位チャット:きっと絶世の美少女なんだろうね!


「呼び出された後はどうなったんだ?」


上位チャット:切り込んでいく

上位チャット:まあ、気になる


「お咎めではなかったわ。だから、処分もなし」

「そうか」

「Vの『キリシたん』にこだわらなくてもいい、とも言ってもらえたわ。……事務所にも心配されてたのに、本当、あたしって空回ってたのね」


上位チャット:よかったよかった

上位チャット:子羊、感涙

上位チャット:額の『水が違うおいしい木綿豆腐』が気になって感動が逃げていくw


「以後、あたしが配信でエルフに絡むことについても、自由にしていいって」


上位チャット:それは朗報

上位チャット:やったぜ


「ただ、エルフをゲストに招いてギャラを支払うのは難しいらしいの。あたしのチャンネルでも配信するならスパチャの配分を決めなきゃいけないし、契約に少し手間が掛かるわ」

「要らん」

「いや、要らないって……結構な金額になるのよ?」

「『お金がどうだから一緒に遊ぶのやめよう』なんて、思わないし思わせたくもないだろ」

「エルフ……。うん、わかったわ」


上位チャット:あの、そのセリフパクっていいですか?

上位チャット:彼女に言ってみたいんです!

上位チャット:そういうのは彼女ができてから聞くべきでは?

上位チャット:ぐわぁあああ!

上位チャット:がぁああああ!

上位チャット:大量殺戮兵器の使用は条約で禁止されているはずだぞ!


「それを抜きにしても、事務所はエルフに会いたいようだったわよ」

「俺に?」

「ええ。エルフはVに興味ない? あたしも推すわよ?」


上位チャット:エルフ推しキリシたん!

上位チャット:事務所にだろw

上位チャット:でも、エルフさん推してる方が尊くない?

上位チャット:尊い


「二ヵ月でいなくなるやつは使えないだろ」

「あー……そういえば、そういう設定だったわね」


上位チャット:マジでやめちゃうのかな?

上位チャット:うーん、エルフさんだしなぁ……


 お、ヒラタケ。


「……ところで、あんたはなんでカゴをキノコまみれにしてんの?」

「カレー粉も買うから大丈夫」

「は?」


上位チャット:草

上位チャット:それは「は?」にもなる

上位チャット:もうちょっと説明したげて


「キノコ美味かったから、他のも試すことにした」

「へえ、日本のキノコって違うのね」

「そうだな」


上位チャット:通じてないけど話題打ち切ったぞwww

上位チャット:このエルフw


「まあ、キノコは知らなかったけど、日本のことが知りたいなら何でもあたしに頼りなさい。力になるわよ」


上位チャット:そのエルフ、昨日、そば屋でカツ丼食ってたんですよ

上位チャット:お箸の割り方をレクチャーしてたんスよ


「じゃあ、聞いていいか?」

「ええ、何でもどうぞ!」

「外で、おっぱいの下に汗かいたら、どうやって拭くんだ?」

「答えられる話を聞きなさいっ!」


上位チャット:草

上位チャット:この流れ、昨日も見たw


「そっか。キリシたんじゃ答えられないか」


上位チャット:あっ

上位チャット:あっ

上位チャット:あっ

上位チャット:ダウト

上位チャット:キリシたんチョップw


「配信終了! 解散っ!」



   ――この配信は終了しました――



上位チャット:知  っ  て  た

上位チャット:別に、キリシたんの戦闘力が低いわけではないのだがなぁ

上位チャット:相手が悪すぎたのだよ

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