23.くっついてる男

「どんなゲームなんだ?」


上位チャット:やはり知らなかったか

上位チャット:バトルレースチャンプはかなりシンプルなレースゲーム

上位チャット:車が壁や他車に接触しても破壊や故障は発生しないタイプ

上位チャット:アイテムやギミックもあまりない

上位チャット:周回ごとにもらえる加速アイテムが特徴かな

上位チャット:それもよそで見掛けるけどねぇw


「単純なんだな」


上位チャット:その分、腕の差が出やすい

上位チャット:アクセルベタ踏みでどうにかなるゲームとは違う

上位チャット:だから、最初はヒゲ男の動きをなぞるといいよ

上位チャット:これでヒゲが下手だったら笑うw


「わかった」

「黄緑女、確認するぞ。勝負は二本先取、車両選択自由、コースランダム、間違いないな?」

「ん」


 使用する車はヒゲ男と同じ、重量感のあるものを選択。カラーは、ヒゲ男が赤、俺は緑になった。

 そして、ランダムで選んだコースは大都市を貫く長大な高速道路を模したもの。名前は『超首都高速道路マキシマム』だそうな。


「高速道路なのにぐねぐねした道や急カーブがある」


上位チャット:まあ、そこはあくまでも高速道路風コースなので

上位チャット:一般車両も出てくるゲームなら違うんだけどね


『レディー……ゴォー!』


 大写しになったシグナルサインに合わせて、発車の号令。八台の車両がスタートした。


「ハァッハー! 俺様の華麗なるドライビングテクニックを見て、惚れるんじゃねぇぜ!」


上位チャット:ヒゲ、最初のクランクであっさり先頭に立ったか

上位チャット:ヒゲ、意外とやるじゃん

上位チャット:ヒゲ、大したものです


「だってさ」

「俺様はヒゲの付属品か!?」


上位チャット:草

上位チャット:ヒゲ生える

上位チャット:お、エルフさんもコンピュータ車両の群れから出てきた

上位チャット:ヒゲからはまだ遅れてるけど、そこまで悪くない距離

上位チャット:二秒差くらい?


「黄緑女、初心者って割に上手じゃねえか。だが、この二連続の大カーブを切り抜けられるかな!」


上位チャット:うまい

上位チャット:アウトから入ってインぎりぎりを抜けていった

上位チャット:大口を叩くだけはあるじゃん

上位チャット:エルフさんも来るぞ

上位チャット:行った!


「ほいっと」


 五秒七くらいの急制動。カーブの外側の壁から一メートル二〇センチ、カーブの頂点に対して三八度の位置から、ブレーキを加えつつハンドルを三回しと八分の一っと。


上位チャット:ん?

上位チャット:んんん?

上位チャット:……

上位チャット:あのー、エルフさん、つかぬことをお伺いしてよろしいでしょうか?


「なんだ?」


 カーブを抜けたら外側の壁付近でハンドルを左、右、左。これ、意味あったのかな? 次は抜いてみるか。


上位チャット:もしかして、ヒゲの運転をコピーしてる?

上位チャット:タイム差が〇.〇一秒も動いてないんですが……

上位チャット:俺らはいったい、何を見せられてるんだ……?


「なぞれって言っただろ?」


上位チャット:完コピしろとは言ってないんだよなぁ

上位チャット:※しろって言われてもできません


「へっ……黄緑女、やるじゃねーか。まさか、俺様にここまで食らいついてくるとはよ! ……いや、本当に驚いたんだけど。経験者だったの?」

「初プレイだぞ」


上位チャット:締まらねぇな、このヒゲw

上位チャット:食らいつくどころの騒ぎじゃないんだよなぁ

上位チャット:さあ、エルフさん、やっておしまい!


「おう!」


 ヒゲ男のルートにあった無駄を削ぎ落とし、俺はどんどん加速する。

 二秒あったタイム差は三周目には一秒差にまで縮まり、四周目には追い抜けるだろうところまで来た。


「ほい、ほいっと」

「……っ!」


上位チャット:ヒゲがコーナーこすった!

上位チャット:これでいよいよ差がなくなったな

上位チャット:三周目入った辺りから焦りが見え始めたよね


「……黄緑女」

「なんだ? あと、俺は男だぞ」

「俺様に苦戦させた褒美に、ひとついいもの見せてやるぜ」


上位チャット:どうせ、エルフさんにコピられる

上位チャット:トナーのサビにしてくれる

上位チャット:ん?

上位チャット:なんだ?

上位チャット:ヒゲがコーナー前なのに減速しない?

上位チャット:エルフさんが同じルートで付いてきたら道連れになるって話?

上位チャット:いやー、それはエルフさんをバカにしすぎでしょー

上位チャット:だよなぁ

上位チャット:あ、やっぱり、エルフさんは減速し始めた


 場所はコーナー。このコース最大のカーブ。前に見えるのは、ヒゲ男の車と――さらに前を行く、周回遅れのコンピュータ車。


「行くぜ! なぞれるもんなら、なぞってみやがれ!」


上位チャット:加速!?

上位チャット:加速全部使った!

上位チャット:それでどうやってカーブを

上位チャット:ぶつけた!?

上位チャット:ぶつけたぞ!

上位チャット:ヒゲ、ぶつけた!


 急加速したヒゲ男の車は、カーブで減速していた前方車両に突っ込むと、その反動を利用して高速でコーナーを曲がり切った。


上位チャット:えええええ

上位チャット:そんなのアリか!?

上位チャット:前の車、コース外にぶっ飛んでったぞ

上位チャット:なるほど、これはトレースできない……


「どうだぁ! これが俺様だァ!」











「ん。覚えた」


 二連続カーブの二つ目。俺は加速アイテムをすべて使って突っ込んだ。

 目標は――ヒゲ男車。


「なぁあああっ!?」


上位チャット:ヒゲを弾き飛ばした!

上位チャット:うわ……エルフさんだけキレーに曲がってった

上位チャット:すげー、見事にものにしてる

上位チャット:別に同じルート上じゃなくても真似できるのかw


「勝った」


上位チャット:ヒゲ、ちょっと同情する

上位チャット:ヒゲ、残念だったな

上位チャット:ヒゲ、くっついてる男で泣いていいからな


「俺様はヒゲの付属品じゃねぇ……」

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