9.エルフライツビジネス

「お前らって、かめはめほにゃららとか波動ほにゃららとか、出そうとしたことある?」


上位チャット:また唐突に日本人くさい話題をぶっ込んできたな

上位チャット:※エメラルドグリーン髪した西洋人っぽいエルフさんのお言葉です

上位チャット:なぜ一文字伏せたし


「伏せないと危ないだろ」


上位チャット:危ない?

上位チャット:何が?


「エルフだぞ? 正式名言って、本当に出ちゃったらどうする。かめはめほにゃららとか波動ほにゃららとかをこっそり練習する小学生じゃないんだから」


上位チャット:かめはめほにゃららは魔法だった説

上位チャット:どうして、エルフさんは俺の小学生時代を知ってるんだ!?

上位チャット:エルフさんは、眼帯して『組織』を警戒してた俺の幼馴染だったんだな……

上位チャット:すべての感情を失ってたから、エルフさんは俺の幼馴染

上位チャット:黒歴史と引き換えにエルフさんの幼馴染になれる権利、爆売れ

上位チャット:なんだその究極の取引

上位チャット:黒歴史と引き換えにエルフのダボダボシャツになれる権利なら欲しい

上位チャット:ラインナップを増やすな


『あんたら、何の話をしてんのよ……』

「お、キリシたん。終わったのか?」

『ええ、終わったわよ! あんたのチームの残り二人も倒して、あたしの逆転勝利! これで一勝一敗よ!』


 ゲーム画面に目を向けると、キリシたんチームの勝利が表示されていた。


「二対一でも勝てるんだな」


上位チャット:エルフさんはほぼ三対一で勝ってるんですがそれは

上位チャット:ナチュラルに自分をカウントしない強者ムーブ


「どうやって勝ったんだ?」

『待ってたら生存数で判定負けになるから打って出たわよ! ひとりひとり順番に射殺いころしてやったわ!』

「なんで怒ってるんだ?」

『あんたが! 試合! 見てないからよっ!』


上位チャット:草

上位チャット:笑っちゃいけないけど笑う

上位チャット:俺の口の中にあったお茶がモニタとその周辺にワープするバグが発生したんだけど、どこに訴えればいい?

上位チャット:飲み込め

上位チャット:誰がうまいこと言えと

上位チャット:それにしても、キリシたんがゴースティング前提の技を練習してるとは思わなかったな


「ゴースティングって何?」

『……相手の配信を視聴しながら戦うことよ。相手の状況が把握できるから有利になる。今、あたしとエルフはそれぞれ同時に配信しているけれど、そういう場合でも、するならば必ず許可を取らないといけない禁じ手よ』

「なんで、そんな面倒な技練習してたんだ?」

『これはソロでやるつもりの技じゃなかったのよ。観測手役の味方プレイヤーに、敵が目標地点に入った合図をもらって攻撃するはずだったの。今日は目印を共有する時間もないから、しかたなくこうしたってわけ』

「なるほど。……ん? 俺、前の配信のとき許可取られたか?」


上位チャット:取った

上位チャット:取ってた

上位チャット:エルフさんは快諾してくれました

上位チャット:ゴースティング万歳って言ってた

上位チャット:お前らwww


「しょうがないなー、お前らは」


上位チャット:サーセンw

上位チャット:エルフさんが可愛くてつい

上位チャット:練習だったから許して許して


「ん。許した」


上位チャット:許された

上位チャット:許されたぞぉ!

上位チャット:無   罪   放   免

上位チャット:ガハハ、我らの正義が証明されたな!

上位チャット:黒歴史と引き換えにエルフの幼馴染になる権利、正式販売許可!

上位チャット:買ったァ!

上位チャット:ダボシャツ権利の許可はまだかね?

上位チャット:こいつら、許してはいけなかったのでは?


『……ずいぶんと視聴者と仲良いじゃない』

「そうか?」

『ええ。羨ましい……妬ましいくらいよ』


 先の試合から開いている、キリシたん側の配信画面。そこを流れるチャットの数は、確かに俺の配信画面を流れるチャットと比べると少なかった。

 でも、


「キリシたんも仲良さそうだぞ」

『慰めなんて要らないわ』

「そういうつもりじゃないんだが」

『何よ?』


 なんとなくわかってきた。

 キリシたんは見るべきものが見えてない。


「んー。今、何を言っても伝わらないからいい。やろうぜ、最終戦。その必殺技――攻略してやるぞ」

『やれるもんならやってみなさい!』

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